第29話 メレディスを探しに 2

 アールズ2日目


 メレディス探しに残された時間は、今日を含めてあと2日。

 明後日の夜明けが『時渡』の瞬間の予定日である。

 メレディスの情報は昨日の時点では何も得られなかった。

 今日も二組と一人ルディフに別れてメレディス探しをし、昼に一時集合と打ち合わせをして捜索開始する。

 今日こそは!と意気込んではみるものの、意気込みだけではどうにもならず、ただ時間だけが過ぎていく。


 気が付けばお昼時。軽い朝食だけで歩きづめではさすがに空腹である。

 ファイス達は一時合流するが、ルディフは戻って来ない。


「シルス、甘いもの好きだろ?デカいドラ焼き売ってたから買ってきた!食うか?」 


「食べます!でも、半分でいーです!」 


「シルスが半分でいいって言うなんてなー、大丈夫か?」


 半分に割ったドラ焼きに早速パクつくシルス。

 

「オトメに向かって失礼過ぎれすよ、ファイスしゃん!」 


「オトメって、ドラ焼きもぐもぐしながら文句言うモンなの?」


「うまー♡」


「食欲は元気の元だからねー、食べて歩いて、また食べる!元気出してこう、シルスちゃん!」 


「ふぁい!」


 何軒かの占い小屋に入って聞き込みをしようとしても、知らない、仕事の邪魔だ、とか、この石を買えば探し物などすぐに見つかる、とか、入会すればそんなものスグにに判るよ、とか怪しい勧誘までしてくる始末である。


 藁にもすがりたいといった感じのシルスは思わず乗りそうになるが、そこは流石にファイスが引き留めた。


 130軒の占い小屋全てをシラミ潰しに訪ねてみる、という案はそういった理由もあり却下。

 魔女、といった特殊な人物がそうそう簡単には出てこない事を痛感するシルスであった。


 陽はすっかり傾き辺りは暗く人影もまばらになってきた。

 この時間帯から開く店もあるが飲食業や娯楽業が殆どで、魔女が経営しているような店など見つかりそうもない。

 夜しか経営していないとも考えてみたが、シェラーラはそのようには言っていなかった。


「ルディフ、どうだったよ?」 


「占い小屋何軒か入って聞き込みしようとしたらヘンなお守り売り付けられそうになったよ」 


「……どこも似たようなモンだな」


 早朝からメレディス探しという事にして今日は終了、明日に備える段取りに。


 宿の2階、女子3人の部屋。 

 二人部屋に三人、という事で宿屋の主人が簡易ベッドを用意してくれた。そのベッドに腰かけてシルスはずっと考え事をしている。


 「シルスちゃん、これ飲むー?」


 シュレスが果物ジュースを手にシルスに呼び掛ける、が。


 ――……明日こそ……本当に……見つけないと!ホントのホントに……帰れない!


 シュレスの呼び掛けにも上の空のシルス。

 

「シールースーちゃん!」

 

「えっ?あ、ハイ!なんれすかっシュレスしゃん!」

 

「……あんまり思い詰めないようにね?アタシ達に出来る事があったら、なんでも言ってね?」


 心配そうにシルスの顔を覗き込むシュレス。その瞳からは、嘘偽り無く心底シルスを気遣っているのが伝わってくる。

 なにより、アタシ『達』と言ってくれる事が、心細くなっているシルスの心に染み入るのだった。ファルナルークも心配してくれている、という事なのだから。


「シュレスさん……」 

「明日も早起きしないとだしね!……一緒に寝るぅ?」  


「身の危険を感じるのでエンリョします」 

「えー、寂しいなあ」


 冗談でシルスを和ませようとするシュレスだが、微妙に冗談に聞こえない。

 それでもシルスの不安感は幾らかは和らいだのだった。


           ◇


 アールズ3日目


 メレディス探しの為に早起きするシルス。今日こそ一番!と思ったのは一瞬だった。シュレスとファルナルークは早くも身支度を整え、いつでも出掛けられる用意ができていた。

 シルスは早起きは苦手ではないが、この旅で一度も二人より早く起きた事がない。


「おはようごじゃいます、ファルナルークしゃん、シュレスしゃん」

 

「……おはよう」


 ファルナルークがいつものように小さい声で答える。


「今日もいい天気れす!」


 早起きしたはよいが、頭の立ち上がりには時間がかかる。寝ぼけたようにフラフラして呂律が回らないシルス。

 

「おはよう、シルスちゃん。髪、寝グセってるよ。今日は市場の方に行ってみようか。美味しいものでも食べながら魔女探し!」


 シュレスの『美味しいものでも食べながら』という言葉でシルスの表情が、ぱっと明るくなる。

 食べ物で釣ると言うと聞こえは悪いが、このやり方が一番効果的、と、シルスの扱い方にも慣れたものである。


 身支度を整え軽い朝食を取って宿を出ると、ファイスとルディフは外で女子3人が出て来るのを待っていた。


「今夜の大花火楽しみだなー、シルス!」

 

「花火……」


 ――……ファルナルークさんと……みんなと見れたら、最高だろうな……明日の夜明けには……みんなと……ファルナルークさんと、お別れ……しないと……いけないんだ……まだ、わたし……

 大事なコト、みんなに言ってない……


「なんか静かだなー、シルス。腹でも痛いのか?」


 シルスの隣を歩きながらファイスが心配そうに聞く。

 

「えっ?ダイジョブですよ!お腹減ってるだけです!」


「市場でウマイもん食えば元気でるぞ!またデカドラ焼きでも食うか!」


「……そうですね!ふさぎこんでても何も良いことないですよね!」


「そうそう。シルスには笑顔が一番!」

「ファイスさんて、いいヤツですね!」


「え、そうなの?」

「そうです!」


 いつもニコニコしていたシルスが、アールズに来てから時折沈んだ表情を見せる。

 シルスのから元気は、ファイスにも伝わっているようだった。


 ――今日こそメレディスさんを見つけないと、本当に元の時代に帰れない……母さん……シェラーラ……みんな……


 宿を出て早速市場へ向かうこと小一時間。

 アールズにはいくつかの市場があり、それぞれに賑わいを見せ繁盛している。

 時期によっては肩がぶつかることなど当たり前、といった混雑となることもある。

 肩がぶつかるほどでは無いにせよ、花火大会当日という事もあり、今日は朝からなかなかの混雑ぶりである。

 夜には身動きが取れないほどの人混みになるかもしれない。


「はぐれるなよ、シルス。手つなごうか?」

「えー、イヤです!ファルナルークさんがいいです!」


 ファルナルークは、嫌とは言わないが複雑な戸惑いの表情をする。

 これが旅の序盤なら明らかに拒否したであろうが、旅が進むにつれ、シルスとの距離が少しずつではあるが縮まっている。

 多少強引にでも手をつなげば、あるいは……

 

「じゃあアタシと手つなごっか!」

「しょうがないですねえ。つないであげます!」


 結局、シュレスと手をつないで歩くシルス。

 ファルナルークはどことなく寂しそうな顔をするが、最後尾を歩く為その表情は誰にも分からない。


 そんなファルナルークに声をかける者がいた。 

 「そこの君、帯剣許可印を確認させてもらえるかな?……おや?」

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