第28話 メレディスを探しに

 いつもより市場が賑わいを見せるのはお祭り週間であり、大花火大会があるからだ。

 様々な人種、種族、亜人や竜人族までもが市場を所狭しと練り歩いている。


 そんな中、ファルナルークは紫色のネコミミを隠さず歩く。

 お祭り週間という事もあり、子供から大人まで仮面や付け耳などは珍しくなかったのはファルナルークにとって幸いであった。


「とりあえず観光案内所でも行ってみるか?街のガイドマップくらい置いてあるだろ。シルスはメレディスって人のツテとかあんの?」

 

「無いんですよー……この街で占い小屋やってるって事しか分からないです」

 

「占い小屋かあ、まあ、それだけでも的はしぼれるじゃん。案内所行ってみよう!」


           ◇


 アールズ観光案内所にて


「えー、と、検索してみますね」


 アールズの街に数ヶ所ある観光案内所。

 アールズ独自の検索網を有し、観光案内所に行けば分からない事は無い、と言われるほどの情報量を持っている。

 担当者が手の平サイズの円盤を専用の読み取り器に入れて、情報検索すること数秒。


「占い小屋だけで検索かけると130件ありますね。少々お待ちください」

 

「シェラーラ~……20軒って言ってたのに、130軒ってケタ違いだよ……」


 こちらに来る前、シェラーラは『占い小屋は20軒』と確かに言っていた。

 待つこと数分。


「お名前、メレディス様……は、ありませんね」


「え」


 一瞬、シルスの時が止まる。


「…………ええっっ!?ないんですかっ!?」


 シルスは、この旅で一番の驚きを見せた。


「はい。えー、メランディス……メリオーディン……メルキリル……メロウィールズ……やはり、出て来ませんね。本当に、メレディス様、で間違いございませんか?」


「………130軒も占い小屋あるのに、メレディスって出てこない……?なんで……?」


 ぐるぐると思考回路が迷走中のシルス。

 固まって必死に思考を巡らせること数秒間。


 ――メレディスさんに会えなければ……元の時代に帰れないっ!?帰れなかったら……もし、帰れなかったら……このまま皆と旅を続けるっていうのもアリ……

 イヤイヤっ!母さんと……シェラーラが心配して待っててくれてる……ハズ……でも……本当に帰れなかったら?

 ……知らない時代……知らない人達……でもでもっ!ファルナルークさんとシュレスさんがいるからっ!きっと大丈夫!3人で一緒に暮らせば、いつか帰る方法が……

 イヤイヤ!ちょっと待つ!

 おさらいしようっ!

 わたしはファルナルークさんが好き……ファルナルークさんに逢う為に時を超えて、そんでもってシュレスさんに出会って、ファルナルークさんにも出会えて……シュレスさんはファルナルークさんの幼馴染みで親友で……シュレスさんは頼れるお姉さんで男前で、いいお義父さんに……

 あれっ!?なんかワケ分かんなくなってきたっ!?なんだっけっ?あれ、なんだっけっ?

 ……そうだっ!ファルナルークさんに……わたしの気持ちをぶつけるんだっ!

 わたしの、素直な気持ちを!

 真っ直ぐな気持ちを!

 想いはきっと!伝わるんだ!!

 

「わたしは!ファルナルークしゃんとケッコンします!」

 

「いきなりどうした、シルス?」


 シルスのいきなりすぎる告白に驚くファイス。

 

「……静かになったと思ったら、何がどうしてそこまでぶっ飛んだのか分かんないけど、それ、着地点大きく間違ってるよ、シルスちゃん。だいぶ混乱してるねー。とりあえず落ち着こうか」


 突然の結婚宣言にも冷静に対応するシュレス。

 

「婚姻届けなら区役所の方で受け付けておりますよ?こちらです」と、呑気に地図を見せる受付嬢。


「イヤ、違いますから。結婚しませんから。未成年だし、女同士だし」

 

「アールズでは同性婚は認められておりますよ?」


「そうなんですかっ?もちろん、シュレスさんも一緒ですよ!」

 

「重婚はよくないぞっ、シルスっ」

 

「シュレスさんはお義父さんのポジションです!重婚じゃないですよ!」

 

「シルスがファルの嫁、いやファルがシルスの嫁ってコトかっ?」

 

「我は誰とも結婚する気はにゃい!」

 

「へー、ファルっち結婚願望無いの?」


「……話がややこしくなるから、みんな静かにしててね。ね、担当さん、検索に出てこない占い小屋ってあります?」

 

「そうですねえ……大きな声では言えませんが、闇営業的なものならあるでしょうね。大きな街ですからね」

 

「それを探すしかないってことかな……ちなみに魔女で検索って出ます?」

 

「怪しげな語句ワードはコレには入力してないので、ないですねえ」

 

「検索で出ないものは足で探すしかないかー……何か手がかりがあればいいんだけどねー」

 

 結局、メレディス情報を何一つ得られず観光案内所を出る一行。

 

「シルスちゃん、大丈夫?」

「えっ、あ、ハイ!ダイジョブれす!」

「大丈夫じゃない返事だね、それね」


 シュレスの気遣いにもシルスはどこか上の空。

 シルスがフラフラするのは、夏の暑さのせいだけではない事は誰の目にも明らかである。


「じゃあ、手分けして探そうか。俺は向こうの方見てくるよ。もし何か分かったら宿に戻るからさっ」


 そう言い残し、引き留める間もなく雑踏に消えるルディフはまたもや単独行動。

 レイクドレイクスや、他に訪れた町でもそうだったように一人で迅速に動く方が性に合うようだ。

 ただ。

 本当にメレディス情報を探しに行ったかどうかは不明だ。


「めったやたらと歩き回るのは時間の無駄だしねー、聞き込み重視で探してみようか!4人バラバラよりも二組に別れた方がいいかな。ちょっとしたデート気分!」


 シュレスは、混乱しているシルスの気分転換になればと思い提案したのだが。


「じゃあファルと!」

「じゃあファルナルークさんと!」


 シルスとファイスの言葉がキレイに重なる。


「えー!ファイスさん、シュレスさんと組めばイイじゃないですかー!」

「えー!やだ、ファルがいい!」


「なんでですかファルナルークさんイヤがってますよっ!」

「アレはそう見えるだけなの照れてるの!シルスこそシュレスと組めばいーじゃん!」


「身の危険を感じます耳舐められちゃいますヤバイですこれはもう貞操の危機ですよこの歳であっちのセカイには行きたくないですカンベンして下さいよ」


 シュレスの思惑など知る由も無い二人はちょっとした『ファルナルーク争奪戦』を始めてしまった。


「……シルスちゃんの中で、アタシはどんだけヘンタイなのさ。もー……よし、分かった!こんな時はコイントス!コイン様の言う通り!ね!」


「……我にょ意思は尊重されにゃいにょか?」


 ファルナルークがぼそっと言うが、誰も聞いてはいなかった。


「じゃー、アタシが決めるね。表が出たらシルスちゃん。裏だったらファイスね!」


「よし来い!ファルとデート!」

「お願いコイン様っ!わたしにデート権をっ!」


 メレディス情報の聞き込みの為の組分け、という当初の主旨とすり変わっているが、精神年齢の近い二人がそれに気付く筈もなく。


「いくよー、それっ!」


 ピン!と弾いたコインはシュレスが思ったより高く、夏空に吸い込まれるようにくるくるキラキラと舞い上がり……


 ひゅうっ。


 ぱくっ。


「あっ」


 バサバサバサっと羽ばたく黒い影がコインを咥えて翔び去って行く。


「コイン様……カラスが咥えてっちゃいましたねー……この場合どうなるんですかっ?」


「まさか、あのカラスがファルとデートすんの!?」


「しにゃいわっ!」


「あっははー!こんなコトあるんだねー!」


「もういっかい!もういっかい勝負!」


 と、食い下がるファイスだったが。


「もうよいっ!我はシュレスと組む!聞き込みは時間が大切だっ。ゆくぞっ!」

 

 ファルナルークは二人の茶番劇から逃げるようにしてシュレスの袖を引いた。


「あらら、二人ともフラれちゃった。じゃー、宿で会おうねー!迷子になんないでよー!」 


「ファルナルークさあん……」


「……ゴメンなー、おとなげなかったな、オレ」


「まあ、いーです!チャンスはきっとまだあります!先にメレディスさん探さないと、わたし帰れなくなるんでした!」


「帰れない?って只事じゃないよなっ。よし、行こうか!」

 

 結局、ファイスとシルス、シュレスとファルナルークの二組に別れ。

 夕暮れまでメレディス情報を聞き込んではみたものの、メレディス情報を得る事は出来ずに1日が終わってしまったのだった。

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