第22話 旅もいよいよ終盤です!

 この旅で何度目の焚き火だろうか。

 パチパチと薪のはぜる音を聞きながら、夕食を終えて5人で寛ぎタイム。

 

「明日の昼にはアールズの街に入れそうだね。予定通りかなー。みんな無事でなによりだよ」

 

「ファルっちのネコミミは無事とカウントするのか?」


 ルディフがファルナルークに意味ありげな視線を送るが、ファルナルークは気付かないフリでスルーした。

 

「皆さんと焚き火を囲むのもこれで最後、って思うと寂しいですよー」

 

「ん?シルスちゃん、寂しい?ちょっとうるってきてる?」

 

「まだ大丈夫です!旅はまだ終わってませんから!花火見たいですし、メレディスさんに会わないとだし!」

 

「街にいるといいけどねー。留守でした!とか、引っ越しました!だと困るよねシルスちゃん」

 

「はははー……ソウデスネー……」


 こればかりは笑えない冗談である。

 もし、メレディスに会えなければ、未来に帰れないのだから。

 話をはぐらかせたかった訳ではないが、シルスは図書館で集めた情報の一つを話題として振ってみた。


「そうそう!アールズの騎士団長さん婚約するみたいですね!」


「「「え!?」」」


 ファイス、ルディフ、シュレスの声がハモる。ファルナルークだけは関心が無いのか、表情を変えなかった。

 

「そうなの?ヴァンデローグ隊長が?プレイボーイで有名な人だよ?」と、シュレスが驚く。

 

「ライトブレード隊の隊長さんと……あれ?」

 

「ライトブレード隊の!?白姫ラスティとか!?」

 と、ファイスまで驚き始めた。

 

「国王候補の一人と婚約って……白姫が王妃になるかもって事じゃん」

 と、ルディフ。

 もはや皆、モブである。


「え、じゃあ、ライトブレード隊って近い内に解散する、って話、は……」


「「「え!?」」」


 またもやハモる3人の声。今度はファルナルークまでも驚いているようだった。


「エリート美人が粒揃いのライトブレード隊が解散!?」


 騎士団に彩りを添える永遠とわの華、と詠われるライトブレード隊の解散はもう少し先の話であるのだが、シルスはうっかり口を滑らせてしまった。

 余計な一言を、と思ってみても後の祭りである。


 ――あれっ……やらかしちゃった!?今はまだ、みんな知らないコトだった……っ


「っていう、夢を見ました!っていう話です!」


「……なんだ、夢の話?ビックリしたわー」

「でも、ホントだったらスゴいよねー。予知夢だね」

 と、ファイスとシュレス。


 アハハー、と笑って誤魔化してはみるものの、

 シルスは内心、冷や汗ものだった。


 そんな中ルディフは一人、誰にも気付かれないようににこりともしない。

 シルスが知る様々な情報を不審に思うルディフ。

 マジクスの赤斑点の事、旅服に施された魔法防護マジックプロテクトの事、今のラスティとヴァンデローグの婚約話とライトブレード隊の解散話。

 そして、マジクスはいなくなる、という発言。

 街道沿いに点在する休憩所の掲示板やかわら版に載らないような事を、何故シルスが知っているのか?


 ――……気にし過ぎか?こんなちっこいコがまさかね……


 ルディフの疑念など露知らず、シルスは最後の野営を楽しんでいた。


「夏!夜!テントと焚き火と若い男女とくれば、ハイ!ファイスさん!」

 

「そりゃもう、えっちな……」

「違いますよナニ言い出すんですかなんなんですかキモいですよファイスさん」

 

「最後まで言ってないのに~」


「肝試しですよ恐い話ですよ夏のド定番じゃないですか!わかってないなあ、ファイスさん!狭いテントの中、恐い話でどさまぎで意中の人に抱き付くんですよ!こんなおいしいシチュなかなか無いですよっ!」

 

「さ、寝ようか。解散解散」 

「えー!シュレスさん、ノってくれないんですかあ!?」

 

「恐いのダメダメなのよお、ファルが」

「そっ、そんにゃ事はにゃい!」


「ファル、分かりやすっ!」


「そうなんですかあ……」


 残念がるシルスの頭をポンポンと撫でるシュレス。


「まあまあ!女子三人でテント入ろっか!テン泊、最後っぽいしね!」


「なるほど……どさまぎで密着ですね!」


 最初で最後、という事でファルナルークは初めてシルスと同じテントに入った。が、二人用テントに三人は、やはり手狭である。

 それでもシルスは嬉しそうにしていた。

 のも束の間だった。

 腹が満たされれば眠くなるのはヒトもハーフエルフも同じ。横になって3分と経たずにシルスはすうすうと寝息を立て始めた。


「う~ん、むにゃむにゃ……ファルナルークさあん」

 

「寝言でむにゃむにゃ言うコ、初めてみたわー。カワイイねえ……舐めてもいいかな?」

 

「……止めておきにゃさい」

 

「ふふっ。ファルさー、もうちょっとさ、シルスちゃんとの壁、低くしてあげてもいいんじゃない?まあ、最初に比べればマシになったけど」

 

「……エルフは、好きじゃにゃい……」

 

「エルフは、でしょ?シルスちゃんのことは?」

 

「……うん……」

 

「どんな夢見てるのかなー?」

 

「ああん♡ファルナルークさあん♡ダメですよお♡」


 シュレスの言葉に反応するようにくねくねと身悶えるシルス。

 

「ほんとっ……どんにゃ夢だっ」

 

「カワイーなあ♡舐めてもいいかな?」

 

「……止めておきにゃさい………それじゃ……おやすみ」

 と、ファルナルークは自分のテントへ戻っていった。


 そして夜も更けて。


 いくらシルスが小柄とはいえ、二人用テントに三人は狭すぎる。

 ということで、湖の街レイクドレイクスで中古の二人用テントを購入しシュレスとシルスが使用している。

 元から持っていた二人用はファルナルーク一人が使うこととなり、男二人は悪天候を除いて相変わらず外である。


 ファルナルークが眠っているテントに忍び寄る影が一つ。


「夏!旅!かわいこちゃん!そして夜!いかないわけにはいかない!女子テントに潜入は男のロマン!ルディフには悪いけど!」


 バカな男が夜這いにやってきた。

 

「お邪魔しまーすう~……暗くて見えない……お?これはっ!」

 

 手のひら全体に感じる柔らかな弾力と温もり。

 ぽわぽわでふかふかに柔らかい。

 

「ん……んふ………」

 吐息混じりの甘美な声。抵抗するような動きはない。


 ――これはっ!いける!

 ファイスは内心、こぶしを天に突き上げた。

 

 ――ファルは脈アリって思ってたんだよなー!


 と、突然、背後でランタンの明かりが灯りテントの入り口がバサッと開いた。

 

「御用ですよ!ファイスさん!」

 

 シルスを先頭に女子3人が入り口を塞ぐ。

 ランタンの明かりに照らされたのは、猿ぐつわをかまされ両手両足を縛られたルディフだった。胸がやたらと膨らんでいるのは、何かしらの詰め物が入っているようだ。

 ファイスが触ったのはそれであり、吐息は猿ぐつわのルディフが漏らしたものだったのだ。


「ルディフ!?なにやってんの!?」

 と、ルディフの猿ぐつわを外すファイス。

 

「ぷはー。よう、ファイスっち」

 

「抜け駆けはズルいぞっ!っていう割りには捕まってるけど!」

 

「ファイスっちだってそーじゃーん。無償で護衛してたんだから、ちょっとはイイ思いしたいじゃーん?」


「キミ達、状況分かってるー?」


 ファルナルークが使用していたテントにまずルディフが侵入。が、ファルナルークはそこにおらずあっさり未遂に終わり、継いでファイスものこのことやってきた、というわけだ。

 

「旅する仲間にトラップってひどくなーい?」

 

「カサカサと怪しい音に目が覚めてみれば、ファルナルークさんのテントに忍び寄る怪しい影!仲間に夜這いかけるようなヤツにはお仕置きです!のててちゃん、れててちゃん!やっちゃいなさい!」


 ルディフの胸に仕込まれていたのは、大きな綿ボコリだ。それがシルスの声に反応してもぞもぞと動き出し飛び出すと、ファイスの顔面にピタッと張り付いた。

 何の攻撃力もないただの綿ボコリだが……

 

「くっさっ!綿ボコリくさっ!」

 

「ぽわぽわ毛玉の、のててちゃんとれててちゃんです!宿屋さんで見つけた綿ボコリの精霊です!10年モノの匂いを御堪能あれですよ、ファイスさん!」

 

「綿ボコリ、でか!そんなのにむらっときたのか、俺!てゆーか、ナニそのでかいのくっさいし!やーらかかったけど!」


 のててとれてては、10年もの間掃除されずに宿に留まっていた訳ではなく、ふわふわと風に乗って他所から飛んできたらしい。宿に住み着いたのは最近で、シルスが見つけなければ掃除係員に排除される所だっただろう。


「女の子に悪さするおバカさんにはお仕置きです!」


「我がにぇむりを妨げるもにょは地獄に堕ちてしまうがいい……!」


 寝ていた所を邪魔されたファルナルークは、すこぶる不機嫌である。 


「え、プレイじゃないの!?」

 

「お仕置きでしょ。ねー、ファル」

 

「薪として集めた木にょ棒がいいか、我にょ拳がいいか選ぶがいい」

 

「じゃあ、ファルのグーで!」


 ごっ!


 この旅で何度殴られたか分からないが、ファイスはグーで殴られた。

 懲りないヤツである。

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