第20話 親密度をあげるには?
今日も街道をゆくお気楽『7月組』御一行。
爽やかな夏風が吹き抜け、シルスのふわふわ髪とぴょこんとハネた前髪を揺らす。
爽風を受けつつ、シルスは何やら考え中。
――お話したい!お話したい!ファルナルークさんとお話がしたい!
シルスの『ファルナルークと話したい』欲求が再び高まる。
以前、誕生日の話を振ってみたらファルナルークとまさかの1日違い。
それだけなら喜べたかも知れないが、ファイスとファルナルークが同じ誕生日、というあってはならない事態にシルス愕然。
――今度こそっ!ファルナルークさんと楽しくお話を!
シルスはあれこれ思案した。
男が会話に入ってこれず、シュレスを含めた女子3人のガールズトークはできないものか、と。
お年頃の女子が大好物の話題と言えば……
恋の話――定番中の定番だが、チューニ状態のファルナルークに浮いた話は出来そうに無い。
スイーツの話――ファルナルークはそもそも少食。甘いものは好まない。
オシャレの話――ファルナルークのセンスを見る限り、服の話題を振ってはいけない。
化粧(メイク)の話――これなら男は会話に入ってこれないし、ガールズトークのテッパン!
――よし、お化粧トーク!コレでいってみよう!
いきなり話しかけても答えてくれるかわからない。
そこでシルスは考えた。
シルス自身、化粧には疎いしリップ程度しか使わない。
『お化粧教えて作戦』にすんなり答えてくれて、そのままガールズトークに持ち込めそうな相手とは。
選択肢はシュレスしかないのだが、話が膨らむか若干の不安はある。
が、思いきって聞いてみる事にした。
てててっと小走りに近寄り、上目遣いで小首を傾げカワイ子ぶってシュレスに問う。
「ねえねえ、シュレスさん!シュレスさんてぇ、どんなリップとか口紅とか使ってるんですかぁ?」
「え、ナニナニ?アタシのコト気になるのっ?カワイーなあ、もう♡耳ペロさせてくれたら教えてあげるよー?」
「なに言ってるんですか気になんてなりませんよ耳ペロなんてさせる訳ないじゃないですかどんなリップ使ってるんですかって聞いただけですよさっさと教えて下さいよ」
「おおう!冷たい返事も、またキュート♡」
シュレスも、なかなかなヤツである。
「あ、それならさー」
と、ファイスが会話に参加する。
――ファイスさん!?ガールズトークにムっサイおニーサンが入ってこれるとでもっ?
と、思ったのも束の間。
「天然リップならモモイロナツナクサってのをすり潰して使うと良いカンジのツヤが出るよ。かぶれとか湿疹の心配無いしオススメ!」
「へー意外だねー、そんなの知ってるんだ、ファイスっち。立派なモテ要素じゃん」
「えっ!モテるの!?モテちゃうの!?」
「ファイスがモテるかモテないかはどーでもいーからさっ!続き聞かせてよ!ファルだって聞きたいよねっ?」
「……うむ」
――えっ!?ファルナルークさんがファイスさんの話を聞きたいなんてっ!!
シルスの思惑とは別方向に話は流れガールズトークの筈が、いつの間にかファイスの『役立つ草講座』にすり変わる。
意外にもファイスは天然物の口紅や日焼け止めに詳しく、ファルナルークもシュレスの背後からなにやら興味ありそうな顔つきをしている。
「ここらへんに生えてる野草でも、日焼け止め効果とか虫除け効果あるんだよ。美肌効果のある野草とかもな!」
「へえー!葉っぱ臭くなんないの?」
「そのまますり潰しただけじゃ青臭いままだけど、ちょっとした裏ワザがあってさ」
「ほうほう、詳しく聞かせておくれよファイス君」
ファイスと話し込むシュレスの背後に回り込むファルナルークは興味無さそうなフリだが、耳をそばだてるようにして実は興味津々である。
「そう言えばファイスって、むさ苦しいわりに全然汗臭くないよねー。どっちかって言ったらミント系のいい匂いするよねー」
「むさ苦しいって、オイ。臭いのは女子に嫌われるじゃん?そのくらいはエチケットってヤツかなっ!手作りの天然消臭香水!」
「……ミントは良い」
「おっ、気が合うなー、ファル!」
「気が合う訳では無いっ。ミントは良いと言っただけだっ」
――ぐぬぬぬっ!ファルナルークさんとファイスさんがいいカンジに!?あれっ!?こんなハズじゃなかったのにっ……
ファルナルークを取られたような気がして、疎外感を感じるシルス。
しかし、シルスはめげない。
――いつかきっと3人でガールズトークを!
と拳を握り、心に誓うシルスなのであった。
◇
また、とある晴れた日の食料事情
危険度5の森を抜け、清流に突き当たった時の事。流れの緩い澄んだ川だ。夏の風を受けて水面がさざめきキラキラと輝いている。
「あっ、今、魚跳ねましたよっ!あ、もう一匹!焼き魚食べたくなってきましたよー」
シルスの一言が発端となり、魚を捕ってお昼にする段取りとなり。
この旅で、焚き火の為の薪集めはいつのまにかシルスの役割となっていた。ちんちくりんのわたしに出来ることはこれくらいですから!と、薪集めはそれほど楽な仕事ではないのだが鼻歌混じりで楽しそうである。
「じゃあ、魚捕るのはオレに任せときなっ。ファルのスキルだと、魚バラバラになるし、剣じゃ魚は釣れないだろ?」
「なんだと……?」
「だって、剣じゃ無理だろ?」
ファイスは挑発したつもりは無いのだが。
『剣じゃ無理だろ?』
この言葉にファルナルークの中の何かに火が着いた。
「キサマのようなどスケベヘンタイに、我が魔剣『死せる嵐のデスストームデスデッド』が遅れを取るとでも?」
「ファルー、止めといたらー?」
シュレスが忠告するが、ファルナルークの負けず嫌いな一面と『後ろには引かない』感が全身からにじみ出ている。
「我が魔剣『死せる嵐のデスストームデスデッド』をバカにされて沈黙する訳にはゆかぬ!」
「ゆかぬ!って。
剣のコトになるとちょっとムキになるよねー、でも、川の水は冷たいからね。ファルにとっては熱湯なんだから気をつけてね?あと、剣の名前長すぎじゃない?」
「長すぎではナイ!我が魔剣『死せる嵐のデスストームデスデッド』は負けん!」
「え、ファル?……今のって……」
「えっ?………あっ、違うっ!」
「まさか、『魔剣』と『負けん!』をかけたんですかっ?」
「シルスちゃん……スベったダジャレほど寒いものはないからね。気を付けようねー」
「だからっ違うっ!」
「わたしは面白いと思いますよっ!ファルナルークさん、どんまいです!」
「慰めは無用だ……っ!」
ファルナルークは耳まで赤くなり、二人にプイッと背を向けるとキッとファイスを睨み付けた。
「いいか、そこのどスケベヘンタイ!我の剣捌き、とくと見るがいい!」
「ダジャレがスベったからって八つ当たりはよくないぞー?」
ファイスの言う事は無視して、ファルナルークが川縁に近づき水面を凝視する。
二度、深呼吸をして心を静め、すっと腰を落とす。
「……秘剣、
大きく上段の構えから、すぱあっ!と川を両断するように水を切ると、音も無く波紋が広がり三匹の魚がぷかりと浮き上がった。
「きゃー!ファルナルークさん、カッコいいー!すごーい!」
シルスが黄色い声をあげてはしゃぐ様も、この旅ではよくある光景の一つになっていた。
ファルナルークは涼しい顔をしているが、どこか誇らしげである。
「へー、やるじゃん!よし!オレの番なー。沢山捕った方が勝ちだよなっ!」
ブーツを脱いで川に入り、ファルナルークが仕留めた魚をシュレスに渡す。
「いっちょやりますか!」
両手を水面につけ……
「見とけよ、ファル!いくぜ!『
ずぱっ!と、勢い良く空に向かって振り上げる。
ずばしゃあっ!
激しい水飛沫とともに一瞬川が割れ、複数の魚が川水とともに巻き上げられる。水飛沫はそのまま大粒の雨となってファルナルークに降りかかった。
「やっ!あつっ!あっついいっ!!キサマっ!わざとかっわざとだなっ!」
雨となった川水とともに複数の魚も空から降ってくる。その内の一匹が……
ベチ!
「あいたっっ!」
「あっ、アタマに魚当たった!ベチっていいましたよっ!だいじょーぶですかー!?」
なかなかのサイズの川魚がファルナルークにヒット。
「あ~あ、ホラ、言わんこっちゃない。ずぶ濡れじゃん。変な対抗意識燃やすからでしょー、ファルー」
「ねー、シュレスっちー、ファルっちって……けっこうなアレだよね?」
ルディフが少しだけ呆れ顔でシュレスに聞く。
「そんなことは無い!……無かった……ハズ……前はこんなじゃ無かったけどなー。ファイスのおバカっぷりにあてられちゃったのかな?」
「二人とも『アレ』とか『こんな』とかヒドイですよっ!ファルナルークさんは、ちょっとコッケイなだけです!」
「……その言い方もけっこうヒドイよ?シルったん」
「おーい、ファルナルークさん!ファイスさん!お魚食べましょう!わたしが
「へー、シルったん捌けるんだ?」
「丸焼きでもいいですけど、内臓でお腹痛くなっちゃったコトあるんですよー。念のためです!内臓取って串焼きにします!」
「シルったんくらいの年齢だと、そういうの気持ち悪がってイヤがる子もいるよねー。ホントに13歳?」
「13歳です!ピチピチのお肌ツルツルですよっ!」
「ぴちぴちのつるつるかあ……美味しそうだよねえ……じゅうさんさい……」
「シュレスさんが言うと犯罪に聞こえますから気を付けてくださいねっ」
捕った魚はシルスが捌き、内臓を取った部分に野生の香草を詰めて串焼きに。
ファルナルークは濡れた服を乾かしつつ、シルスが焼いて手渡してくれた魚を頬張ると少し沈んでいた表情が幾分か和らいだ。
「おいひーですねっ、ファルナルークしゃん!」
「……うむ」
「この前食べた鹿肉の燻製もおいひかったれすけど、サカナもさっぱりしへへおいひーれす!」
「……食べながら喋ってはいけない」
言葉数は少ないが目を見て会話を交わす。
小さな積立ではあるが、シルスは少しずつファルナルークとの距離感を縮められていることを嬉しく思うのだった。
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