道中、てんやわんやで毎日楽しいです!

第14話 いざ、アールズへ!

 シルスの旅の護衛、ファルナルークにかかったエルフの呪いの解呪を兼ねて一行はアールズの街へと旅の歩みを進める運びとなり。


 シルスにとっての一番の目的は、ファルナルークと夏休みを満喫しアールズの大花火を一緒に見ること、であったのだが、ファルナルークにかけられた呪いを解く事も重要事項の一つとなった。

 しかし、シルスは懸念する。

 シェラーラが言っていた三つの禁忌の内の一つ、『救済』にあたるのではないか、と。


 ――こればっかりは言っちゃったし、わたしが呪い解くワケじゃないしっ!シェラーラのお師匠様なら呪いなんて解けるハズ!なんとかなるなるー♪


 懸念しつつも、ノリは軽いシルスなのであった。

 ちなみにファイスはファルナルーク狙い、ルディフもファルナルーク狙いだが、あわよくばシュレスも、と目論んでいる。


「シルスのリュックはパンパンだなー。ナニ入ってんの?」

 

「オトメのリュックは秘密がいっぱいなのです!やらしいですよ、ファイスさん!」 


「アタシが荷物チェックしようか?無駄を省けばその分、足が軽くなるからね」


「そっか……じゃあ、お願いします、シュレスさん!」


 身軽に行動するには、荷物は限りなく少ない方が良い。シルスからリュックを預かり、ごそごそと荷物チェックを始めるシュレス。


「どれどれー?……お菓子、お菓子、非常食、お菓子、着替え、非常食、お菓子、水筒、着替え…遠足かな?」


 お菓子は手作りで日持ちのよい乾燥した固形物が大半であり、非常食もそれに似たようなものだ。水筒がやたら大きくスペースを取りすぎである。


「遠足に近いかもです!移動中のスタミナ補給は大事じゃないですかっ?」

 

「まあ、ねー……でもこれは一人じゃ持ちすぎだし、分担しようか」

 

「よろしくお願いします!わたしのお菓子食べちゃダメですよ、ファイスさん!」

 

「食べないよー……たぶん」

 

「食べるならみんなで分けますからねっ」

 

「食いモンにはキビシイねえ、シルったん」


 旅に慣れると荷物は少なくなるものである。 

 必要な物は現地調達すれば良いし、下着や着替えなどは洗えば済む。

 必用最低限の荷物で行動すればシュレスの言う通り、足が軽くなり身体への負担も少ない。

 

 徒歩での移動が多ければ尚更である。

 実際、シルス以外の4人はすこぶる軽装だ。

 シュレスは2人用テント、夏用寝袋、簡易調理器具。武器らしい武器は護身用ナイフ。テントと寝袋が入っているとは思えないほどコンパクトなリュックだ。

 夏用寝袋は生地が薄い為、圧縮すれば拳ほどの大きさにしかならず全く嵩張らない。


 ファルナルークは長剣を装備している事もあり、ウエストバッグとレッグバッグに少量の備品。

 ファイスとルディフも、ウエストバッグとレッグバッグに小剣程度である。


「シルスちゃんは護身用ナイフすら持ってないんだねー」

 

「子分のテーブルがイヤがっちゃって持ってこれなかったんですよー」


 木は金属を嫌う、とのことで出立直前にシェラーラにナイフを預けてきたのだが、シュレスがテーブル魔方陣の事を知る筈もなく。


「……言ってる意味がわかんないけど、ナイフくらいは持ってたほうがいいかもね。アタシの貸してあげるよ。使えるかな?」


「使えます!ありがとうございますっ」


 ナイフを手渡すと、シュレスは手際良くシルスの荷物を小分けし、元の半分以下の量に減らしてみせた。


「軽くなりましたー!ありがとうございます、シュレスさん!」

 

「長旅だからねー、身軽になっておいて損はナイよ。さてさて、シルスちゃんも身軽になった事だし。どうしよっかね?アールズまで徒歩で18日くらいはかかるかな。危険箇所回避だと20日前後ってとこだろうね。花火大会の8月28日までには到着したいよね」


 基本的に街道を行く道程になるが、数ヶ所、森や谷を通らなければならない。

 う回路はあるが当然その分の時間はかかるし、それではシルスが希望する日程を超えてしまう。

 最低でも28日にはアールズに着きメレディスに会わなければ、元の時代に帰れなくなる。


「馬車でもいいけど、お金がツラいかな。一日貸し切るだけで、一晩の宿代以上は軽く飛んでくからねー……バイト代は宿屋の弁償でほとんどなくなっちゃったし」

 

「スミマセン……」


 申し訳なさそうにシルスが謝る。


「まあまあ、しょげないで、ね!シルスちゃんだってお金出してくれたじゃない!君達は……持ってないよね?」


 ファイス達に話を振るシュレス。

 

「金ならない!ちょっとしか!」 

「うん、やっぱり!見たままだったー!」

 

「ちょ、失礼じゃね!?」

「ないんでしょ?」

 

「ない!ちょっとしか!」 

「見たままだね!」

 

「見た目で判断すんのは失礼じゃーん!」 

「ハイハイ。シルスちゃんはどうしたい?」

 

 ファイスを軽くあしらうシュレス。

 

「もちろん、徒歩です!旅といえば徒歩です!旅の醍醐味です!」

 

「1日8時間位、もしかするとそれ以上歩く日もあるかも……シルスちゃん歩ける?」

 

「わたし、ちっこいけど体力ありますよ!歩いて食べて、また歩く!楽しみです!」

 

「途中、危険な箇所もあるからねー。そこだけ馬車移動ってのも手かもね」と、ルディフ。

 

「そんじゃ、基本、歩きで、危険な箇所は馬車ってコトで!」


 と、シュレスがまとめようとすると。


「じゃあ、早速、馬車借りよーぜ、馬車。速いよー?」

「ファイスっち、ハナシ聞いてた?金無いな」

 

「あれ?さっきも金無いってハナシしてなかったっけ?」

「そーだっけ?馬車借りるってハナシだろ?」

 

「馬車を借りるお金がないって話ですよ?」

 

「金ならないな」

 とルディフ。

「結論、出ました!俺達は金がない!」

 と、ファイスが結論を出すが、


「……バカの会話にはバカしか理解できないのだな。なんでこんな連中と……」 


 ファイス達のおバカな会話に、ため息混じりにぽそっとファルナルークが呟く。


「そんなツンツンしなさんなって!可愛くておっぱいおっきーんだから、もっとにこやかにさあ」


 しゅるん!と抜刀一閃するファルナルークの剣が正確にファイスの喉元を捕らえる。


「胸の大きさは関係なかろう」


 怒気のこもった低い声でファイスを睨み付けるファルナルーク。


「ジョーダンだよジョーダンですっ。キレイな顔なんだから笑顔笑顔っ!あと、やたらと剣抜いちゃダメっ!」 

 

「我が魔真眼は貴様のよこしまな心を見抜いている……」

 

「お見通し的なー?」

 

「ただのスケベ野郎だ」

 

「ファルっちキビシーなあ」と、ルディフ。

 

「ファルナルークさんの口からスケベ野郎なんて単語がっ……恐るべし呪い……っ」

 

「それ、呪いと関係なくない?ファルってさ、剣術技能選抜に出たことあるんだよ。たぶん君たちより強いよ?」

 

「なんでシュレスっちが自慢顔なのさ」

 

「誇れる自慢の友なのさ!ふふーん」

 

 食料調達と備品の買い足しを済ませると、いよいよシルス念願のアールズへ向けての旅の幕開けとなる。


「ではでは皆さん!アールズの街に向かって出発ですよー!えいえい、おー!」

 

「おー!ってオイ!みんな言えよっ」


 シルスの号令に元気良く返事をしたのはファイスだけであった。

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