第13話 パーティー結成?

「お腹一杯になったら眠くなってきましたよー……風が気持ちイイですねー……」

「ファルがバイト終わるまで寝てていいよ、シルスちゃん」


 緊張の連続だったがシュレスといると何故か安心する。満腹感もあいまってシルスはテーブルですうすうと寝息をたて始めた。


「あらら、ほんとに寝ちゃった」


「やたら無防備だなー、その子。キミの事、信頼してるって感じだな」


 ファイスが感心したようにシルスの顔を覗き込む。


「そうなのかなー……アタシ達も今日知り合ったばっかなのよ、実は」

「え?そんな風には見えなかったよ」

「それは、キミ達もね」


 そのまま1時間程シルスが寝ている間、シュレス達3人で今までの旅の話、どうでもいい世間話などで時間潰しをしてファルナルークを待った。

 やがてシルスも昼寝から目を覚まし、ファルナルークがどんな服装で来るのか楽しみでワクワクソワソワし始めた。


 ――シュレスさんの旅服もステキだけど、ファルナルークさん、あんなにスタイル良くって美人なんだから、きっと旅服もオシャレなんだろうなー♪


「時は来たれり、シュレス」


 ほどなくして、ファルナルークが支度を整えてシュレスの元にやってきた。


 濃い灰色ダークグレーの長袖に紺色のパンツ、焦げ茶のロングブーツ。

 薄灰色の夏用の日除けマントといった出で立ちはお世辞にもお洒落とは言い難く、先程までの小洒落た給仕服と違い、至って地味。

 腰の長剣はどこにでもありそうな無装飾の鉄の剣であり、ファルナルークの言う『魔剣、死せる嵐のデスストームデスデッド』の意味がわからない。

 総じて、ファルナルークの持つ魅力を大幅に削る旅装束である。

 

 一言で言うと、


「ださ、っ……いや違うっ!ファルナルークさん!その格好って……一緒にアールズに行ってくれるんですか!?」


「シュレスが構わない、と言っていたからな……我も旅に関しては、やぶさかではない」


 返事はするが口調は冷たく、シルスの方を見ない。エルフ嫌いなのは相当なようだ。


「やった……やったあ!ファルナルークさんとの旅!うれしいですっ!ファルナルークさん!!ありがとうございますっ!」


「一つだけ問う。何か特技はあるのか?ハーフエルフのコムスメよ」

「えっ……これといった特技は……」


「シルスちゃん、綿ボコリの精霊と話せるんだってさ!」


 ファルナルークの厳しめの声にシュレスがすかさずフォローを入れる。


「綿ボコリ……?」


 聞いた事の無い精霊の名に、ファルナルークがきゅっと眉をひそめた。


「何かの役に立つよ、きっと!たぶん!……そうであれ!」


「……ノースキルならば、せいぜい足手まといにならぬ事だな」


 ファルナルークの態度は冷たいが、それでもシルスには、共に旅を出来る喜びの方が上回っていた。


「オッケーでいいんだよね、ファル!めっちゃイヤがったらどうしようかと思ってたんだけど……それじゃあ、決まりだね!」


「よかったな、シルス!これからよろしくなっ!」

「えっ?ファイスさん達もですか!?」


「え?なに、イヤなの!?オレ達、役に立つよー?」

「さっきのアレでですか!?……どうします?シュレスさん」


「んー、こういう時は……そうだねえ、コイントスで決めようか」

「コイントスですか!?」


「断る理由もないけど一緒に行く理由もない。どっちつかずの時はコレだよ!簡単だし、公平でしょ?確率は二分の一!」

「そういうもんなんですか……?」


「そう!じゃあ、ハイ、これシルスちゃん」

「えっ?わたし!?」


「この旅の提案者はシルスちゃんだよ?だから、この二人の運命を決めるのもシルスちゃん!さあ、やってみよう!」

 

 思わぬ所でこの旅を左右するかもしれないコイントスを任されてしまったが、臆する事は無い。要は男二人の運任せなのだから、シルスにとってはさほどの重荷ではないからだ。


「それじゃあ……恨みっこナシですよ、ファイスさん!ルディフさん!」


「じゃあ、表で!」と、ファイスが即答する。


「いきますよー!それ!」


 ピン!と空高くコインを弾き……


「あっ」


 ぽろっと取り損ねるシルス。


「わわっ、コイン様っ?どっか行っちゃった!」


 取り損ねたコインはチャリン、コロコロと転がり、ファルナルークのブーツに当たって止まった。


「表?裏?どっちっ!?」


「……オモテ……」


 ファイスの問いにそっぽを向いてイヤそうに小さな声で答えるファルナルーク。


「マジかっ!やった!やったあ!」


 ファイスはシルスと精神年齢が近いのか、同じリアクションで喜んでみせた。


「コイン様の言う通り!ってね。じゃあ、この五人で、目指す街はアールズ!って事で!俺達元マジクス隊員がいるんだから、心強いだろ、シルス!」


「スカートめくりのそよ風スキルなんて、ビミョーな気がする……あっ、そうそう!ファルナルークさんもスキル使えるんですよね!」


「……初対面のコムスメが何故知っている?」

「えっ?……えと……赤い斑点があるんですよねっ!それです!」


「コムスメ……っ……我の赤斑点を知っているのかっ……!?」

「あれっ?違うんですか!?」


 二人ともちょっとした駆け引き戦的な展開になっている事に気付かない。

 シルスはマジクス特有の赤斑点を情報として知っているに過ぎず、ファルナルークの赤斑点を見た事は当然、ない。

 対してファルナルークは、シルスが自分の赤斑点の事を知っている、と思い違いをして動揺を隠せない。


「なかなか見れないですよね!」

「……っ!」


 シルスのこの一言が決定的となったのか、ファルナルークはぐっと押し黙ってしまった。


 ――弱みを握られた……!?


 何故か沈黙して赤面するファルナルーク。


「いいか、コムスメ……この先、赤斑点の話題は口にしてはいけない……」

「え、どうしてですか?」


「どうしても、だ。シュレスっ……ニヤニヤしないっ!」

「はーい」


「ふーん……赤斑点のコト知ってるのかー……シルったんみたいな若い子にまで情報拡散してるんだねー」


「シルったん?わたし?」


「シルスちゃんだからシルったん。親しみと愛を込めて、ね!あと、シュレスっち、ファルっち、ファイスっち、で!」


「……やっぱ軽いですよ、ルディフさん」


「ちなみにオレの赤斑点はコレな!コレコレ!シャレてるだろ!」 


 ファイスが右耳のピアスを指差す。が、よくよく見るとそれは小さな血豆のようだ。

 ピアスに見えた赤い点がマジクスの赤斑点だったのである。


「ファイスさん……そうやって見せびらかすから情報ダダ漏れなんじゃないですか?」


「マジかっ!オレかー!」


「ちゃんとした自己紹介がまだでしたよね!わたしの名前はシルスです!13歳です!夏休みを満喫がてら、アールズの街に住む魔女さんに伝言を伝えに行くのです!そしてもう一つ!

 アールズの大花火を皆で見たいのです!

 みなさん、護衛のほど、よろしくお願いします!」


「夏休みとか花火とかサイコーじゃん。いいねえ、毎日遊び放題だねー。まあ、アタシもだけど。アタシはシュレス。ファルの幼馴染みだよ。二人で旅しながら行き当たりばったりでバイトして、人生模索中ってカンジかな」


「オレはファイス。さっきも言ったけど、元マジクス隊員。部隊解散でヒマになったからあちこち旅して回ってるのさっ!」


「ルディフだ。俺も元マジクス隊員。よろしくね、かわいコちゃん達!一緒にひと夏の思い出作ろう!」


「……我の名はファルナルーク。魔真眼ましんがんの導きによりこの地上に呼ばれし者。約束の地を求めて旅する者なり」

 

「声ちっさ!え?なに?今、なんつったの?」


 ファイスが即質問するが、ファルナルークは無視。


「いざ!アールズへ!って感じです!」

「いーねえ、ワクワクするねっ」


 シュレスとシルスはノリノリだが、ファルナルークはそうでもない。それは誰が見ても分かる気乗りしない表情だった。

 ファルナルークからすれば、見ず知らずのハーフエルフが親しげに接してくるのだから、不信感しかないのも仕方がない。


 男二人はというと……

 なにやらこそこそと耳打ちをしている。


「で、ファイスっちはどっち狙い?」


「もち、パツキン!白みがかったパツキンサイコー!さらに服の上からでもわかるパイオツカイデー!時々、なんかナニ言ってるかわかんないし、旅服だっさいけどマジ好み!」


「マジかー!オレもなんだよねー。朱毛の三つ編みっ娘もかわいーんだよなあ、どっちかなー、イケるなら2人とも!」


「『二兎を追う者いっとかないと』ってヤツか!?よっしゃ、じゃあ勝負!恨みっこ無しな!」


「なんかそれ使い方間違ってるけど、まあいーか!勝負!」

 

 バカな男二人もシルスの旅の護衛としてパーティーに加わる事になったのだが、邪な下心満載なのであった。


「張り切って自己紹介済んだけど、今日はもう動けないねー。夜間行動は流石にリスキーだよ。もう一晩マトランの宿にお世話になろっか。ファル、いいよね?」


「……致し方あるまい」


 ファルナルークを待つ内に日は傾き、西の空には一番星が輝いていた。

 結局、マトランの宿に戻るシュレス達。


「なんだ、またあんた達かい?……家具、壊さねえでくれよ?素泊り一人3000エイン、そっちのお嬢ちゃんは1500エインでいいよ」


「おっ!おとっつぁん優しいねえ!良かったねシルスちゃん!」


「お泊まり……!初日からファルナルークさんとお泊まり!こっ、心のずんびがっ!」


「……なにも起きないからね、旅に備えてちゃんと寝ないとね?」

 なにやら興奮気味のシルスをなだめるシュレス。


「オレ達はっ?」


「それは自分達でなんとかしないとねー。アタシ達でもう満室みたいだし。夏だから野宿でもいいんじゃない?オトコノコでしょ!」


「いきなり扱いヒドイなー!まあ野宿は慣れてるけど!」

「子守唄、歌ってあげるのになあ。マッサージもしてあげるのになあ」

 

「ルディフー……言い方がやらしいよ。明日は早いんだから、さっさと寝なさいなー!じゃ、おやすみぃ!行こっか、シルスちゃん!」

「いきなりのお泊まりイベントです!ワクドキです!」

「お風呂無いからねー。汗拭いて寝るだけだよ?」


 結局ファイスとルディフは野宿。シルスはお泊まりイベントに興奮していたが、初日の疲れがどっと押し寄せたのか、ベッドに横になるとほんの数秒で眠りに落ちた。


「寝る子は育つってねー。カワイーなあ……シルスちゃんの耳、舐めてもいいかな?」


「……止めておきなさい」


 お姉さん二人も明日からの新しい旅に備えて早めに就寝し、5人の出会いの一日を終えたのだった。

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