第12話 チャラくておバカな二人組

「ねーねー、キミ達、楽しそうだねー!ここで出会ったのも何かの縁!一緒にお茶しなーい?」


 右耳に赤いピアス、脱色したような茶髪に日焼け肌。加えて、ヘラヘラしたしゃべり方の若い男。年齢は二十歳前後といった所か。

 

「チャラ!かるっ!ナンパですよ、ナンパ!無視しましょうね!」


「ちょっと待ってよー?ナンパじゃないよー?ハナシ聞こえちゃったからさー。旅の護衛が欲しいんでしょー?だったら、俺達なんてどうかなっ?」


 もう一人の男はかなりのイケメンである。黒髪にワンポイントのオレンジメッシュ。長身小顔で脚長のさわやか君。

 が、シルスにとってはただのナンパ男にしか見えない。


「脱色茶髪にオレンジメッシュの二人組なんて、ださださナンパあるあるじゃないですか!護衛どころか身の危険を感じますよっ!」


「ちっこいのにハッキリ言うねえ、キミ。ね、名前は?」


「シルスです。13歳です!わたしに声かけした時点であなた達は犯罪者です!未成年者への淫行ですよっ!」

 

「俺はルディフ。こっちはファイス。名前、教えてくれたじゃん?その時点で淫行罪は無いよ、たぶん」


「え、そうなんですか?」


「わかんないけど。女3人旅って楽しそうでいいよねえ。でもそこに!頼りになるお兄さんがいると、もっと楽しく安全に旅が進むと思うんだけど、どう?さらに加えて!俺達、元マジクス隊だよ?そんじょそこらの冒険者とはワケが違うよー?」


 スラスラとよく回る舌で自分を売り込むルディフの爽やかな笑顔は、万人受けするそれである。


 ――マジクス!?島を救った英雄!!


 シルスが初めて見るマジクス達は、至って普通の青年に見えるが、第一印象が良くない。

 ファルナルークは、あからさまにイヤそうな顔をしている。


「じゃあ、ここでアピールタイム!見せてあげよう!マジクスの能力を!」


 ファイスがびしっとポーズを決めるが、あまりカッコ良くは無い。むしろ寒い。

 と、その時、注文の料理が運ばれてきた。 


「タマゴサンドセットと日替わり定食二人前、お待ちどうさまです~」


「わ!美味しそう!お腹ペコペコですよー!いただきまぁす!」


 腹ペコのシルスはファイスそっちのけで料理を食べ始めた。


「シルスちゃん、ホントに食べきれるの?けっこうなボリュームだよ?」


「ふぁい!お腹ペコペコれすから!」

 食べながら喋るとこうなる典型である。


「あそこにいる女子四人を、その曇りなきどんぐりまなこをかっぽじって、よーく見とけよー!ちょっとっ!食ってないで見ててよ!?」


「見てまふよ!あっ、この肉団子辛い!でもおいひい!あっ、おいひい!」


「いくぜ!『空動(エアムーブ)!』弱めで!」


 ファイスが右手を下から上に大きく振り上げると、一陣の緩い風が舞い上がり。

 通りを歩いていた女子学生のスカートの裾がふわりとめくれ上がった。

 きゃあ!と突然の風にスカートを押さえる女子四人。


「白!白!ピンク!青!かーらーのー!」


 ファルナルークに右手を向ける。

 が。

 

 ごす!


「いて!いってー!縦に使う!?アタマ割れちゃうでしょー!」


 ファルナルークに頭を銀盆の縁でどつかれてファルナルークへのスキル発導は未遂に終わった。


「おい貴様」


 ファルナルークの声に怒気がこもる。


「まあまあ、ファル、落ち着いて。キミさあ、街の中でマジクススキル使わない方がいいよー?変な悪目立ちするから『マジ、クズ』とか『まじ、クソ』とか『まじ、ぷすー!』とかって煙たがられるんだから」

 

「世界を救った英雄に向かってヒドイよなー!」


「別に救ってないでしょ、世界なんて」


「ね、ハーフエルフちゃん、見てた?見てた?食い気が勝ってない?」


「わたひの名前はシルスれす!ちゃんと見てまひたよ!マジクスの能力で女の子のスカートめくるなんてサイテーれすよっ!」


 もぐもぐしながらプンスカとシルス憤慨。


「まあまあ!気を取り直して!それはそれ、これはこれで!」

「このから揚げもピリ辛でおいひー!」


「……ホントに見てた?」 


 シルスは定食に夢中。

 シュレスはタマゴサンドを食べ終えて、ニコニコしながらシルスの食事を眺めている。


「食べながら喋るとこぼれちゃうよ、シルスちゃん♡」


「なあルディフー。なんか、オレら、ほったらかされてない?」


「焦らないの。食事中の女子ってメシ以外は目に入らないモンだよ」


「そんなもんなの?」 


 ファルナルークはマスターに呼ばれ、「しばし後に」とシュレスに告げ、ちらっとシルスを一瞥いちべつしたが特に何かを言う事無く仕事に戻った。

 ヒールがカツコツと音をたてる度にふくらはぎがプルンと揺れ、形の良いお尻が左右に振れる。

 その後ろ姿をじーっと、目で追うファイス。

 

「んー、やっぱ給仕服は薄いピンクのノースリーブが最強!肩からすらりと突然現れる眩しい素肌!後ろにスリット入りのタイトスカートなんてたまらんよね!風でめくれないのが残念!」


 アトラクスの給仕服について語るファイスに白い目を向けるシルス。


「しれっと同じテーブルに着いてまふけど……イヤらひい目れファルナルークしゃんのコト見ちゃダメれすよ!ファイスしゃん」


「えー?イヤらしい目じゃないよー。給仕服の似合うカワイー女の子に目がいくのは男として当然じゃん!」


「ちっこいのによく食うねえ、二人前でしょ?」

 

 と感心するルディフ。


「食べまふよー!これから始まる旅に備えないと!」


「美味しそうに食べる美少女って、美味しそうだよねえ♡」


「シュレス……だっけ?キミもけっこうなアレだね」


「ごちそうさまでした!おいしかったー!」


「ホントに食べきっちゃったねー。おっきくなるといいね、シルスちゃん」


「ふう。お腹一杯です!あ、そう言えば!ルディフさんのマジクスの能力ってどんななんですか?」


「え~、ヒミツだよぉ。そんな簡単に教えなーい♪」


 と、チャラ軽く答えるルディフ。


「なんか違う……」


 先ほどのファイスのそよ風スカートめくりといい、このルディフの軽い態度といい、シルスがマジクスに抱いていた『島を救った英雄達』というイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。


「シルスちゃん、ハーフエルフだよね?やっぱ精霊と話せたりするの?」


「あ、ハイ!綿ぼこりの精霊とお話できますよ!」


「わたぼこり……?」


 食後のコーヒーを口にしていたシュレスの手がピタリと止まる。


「家の中のホコリって、溜まると綿みたいに膨らむじゃないですかー!あれに精霊が宿るんですよー!」


「……へー……どんな話するの?」

「早く掃除しろ!って言ってる事が多いですね!」


「……だろうね。その他には?」

「そうですねえ、砂埃すなぼこりの精霊とか土埃つちぼこりの精霊とかですかね」


「……何て言ってるの?」

「風が強いから気をつけろ!って言ってる事が大半ですね!……シュレスさん?なんでプルプルしてるんですか?」 


「あっははー!も、だめっ!オモシロすぎだよシルスちゃん!ホコリばっかしじゃん!」

「えー!?わたしっ、なんかおかしなコト言いましたぁ!?」


「精霊って言ったらさ、地水火風の四大元素思い浮かべるでしょー。あと、光と闇の精霊とか!綿ぼこりの精霊って初めて聞いたよー!」


「わたしっ、まだまだ勉強中でっ。地水火風なんて見向きもされないですよっ」


「へー、そういうもんのなの?エルフって生まれながらにして精霊魔法マスターしてるって教わったけど」


「わたしハーフだから、精霊魔法とかそんな簡単には使えないんですよー……これから使えるようになる予定です!」


「まあ、綿ぼこりの声聞こえるってスゴいよ!面白い!うん、スっゴい面白い!」


「……ホントにスゴいって思ってます?オモシロがってますよね?」


「うん、面白い!好きだよ、そういうの!」


「むー……ファルナルークさん、何時に終わるんですかねー?ちゃんとお話して、納得してもらって一緒に旅したいです!」 


「んー……あのさー、実はさー、ずっと思ってたんだけど……シルスちゃん、夏休みでしょ?学生でしょ?その……家出じゃないんだよね?もしそうならアタシら未成年者連れ回しで捕まっちゃうからさー」


「家出じゃないですっ!ちゃんと両親の許可は取ってありますようっ」


「まあグレた不良娘って感じはカケラも無いよねー」


 ルディフがにこやかにフォローする。


「オレ達が家出娘の保護者、ってコトにしよっか?」

「家出じゃないですってば!ファイスさん!」 


 ファルナルークが共に旅をしてくれると言ってくれた場合、若者四人にハーフエルフの少女のパーティーとなる。

 その状況をはたから見れば、未成年者を連れ回す怪しい若者四人組と思われてもおかしくない。

 それを懸念するシュレスに対して、男二人はあくまでも軽いノリであった。


「ファイスさんとルディフさんは、お付き合い長いんですか?」

「お付き合い……って、そんなんじゃないよう」


「なんでクネクネするんですかキモいですよなんなんですかそんな意味で言ってませんよファイスさん」


「俺達、さっきそこで知り合ったばっかだよ」


 ルディフがさらっと答える。


「え」


「気が合うっていうかね、ホラ、俺達って軽薄じゃん?薄くて軽いじゃん?ツレになるのも、気が合えばあっさりなんだよ」


「薄くて軽いっていう自覚あるんですね……」

「薄いよー。ペラペラだよー?薄すぎてスケスケだよ」


「スケスケのペラペラかー。そのままどっか飛んでっちゃえばいいのにねえ」とシュレス。

「あっ、それいーですねえ!」


「えー、ひどいなあ♪」


 ひどいとは言いつつ、女の子と話すのが楽しくて仕方がない感を隠そうともしないルディフは笑顔である。

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