第11話 ファルナルークおばあちゃ、、ん!?
「フハハハハっ!ようこそおいでませ、お客様よ!さあ喜んで御注文を承ろうぞ!そなたの御注文はっ!?うむっ。褐色の小粒より抽出した黒き汁!甘き白粒と白き汁と共に。さらに加えて?練り粉を焼きあげ、その上に毒針昆虫の甘ーい汁をかけたもの!承った!」
「コーヒーとパンケーキにハチミツね」
「……ややこしいですね」
声の主は向こうを向いている為、顔は見えない。
「そちらのお客様は!紅蓮の粒を頂きに添えた氷獄の紅白甘汁!ありがとうございます!」
「イチゴミルクシェイクね」
「……よく分かりますね」
「あの
「えっ?」
「会いに来たんでしょ?ファルに」
「あの人ですかっ!?」
若い女性客の二人組はおかしな注文の取り方にクスクスと笑っていたが迷惑そうな顔はせず、むしろ楽しんでいるようだった。
「おーい、ファルー!」
ファルナルークがオーダーを厨房に出した後にシュレスが呼び掛けると、すっと二人の方に振り向いた。
ストレートの艶やかでサラサラな金髪が太陽の光を受けて輝く。惜しむらくは、その髪を伸ばさずにショートカットにしている事だろうか。
襟足を長めにしているのは、うなじの日焼け防止の為である。
長いまつげにぱっちりした大きな瞳の色は夏空の青。肌は白く日焼けもせずにくすみ一つ無い色白美人。
薄いピンク色のノースリーブの給仕服の上からでもわかる豊かな胸と、くびれたウエスト。タイトスカートから伸びるすらりとした長い脚。
この時代では定番の給仕服だが、シルスの目には斬新なものに映って見えた。
シルスの憧れの人、ファルナルーク。
写真でしかその姿を見たことがない、実の祖母。一目惚れをした憧れの君。その人が今、目の前にいる。
「ファルナルーク……さんっ」
シュレスは『ファルじゃないよ、そのヒト』とさらっと一蹴したが、シルスの目には何処からどう見ても写真の人物と同じ顔である。
ただひとつ違う箇所は、髪の長さだ。
――ファルナルークさんだ!!ホントに……本当にいた……!ファルナルークさん!!写真よりオトナっぽい!ステキです!
初めて写真を見た時のドキドキ感をはるかに超える高揚感とトキメキ感。
胸の心拍数が上がり、顔がだんだん熱くなってくる。
「めっちゃ美人……!スタイル良すぎっ!写真と実物は違うって言うし!実物の方が美人だし、間違いないよね!うん!わたしの……」
――おばあちゃん!
「シュレス……と、エルフ!?」
カツコツとヒールを鳴らしながら二人の元へ近づいてくる。
「わわわっ、こっちに来ますよっ!あっ!前髪アホ毛が私とお揃いですよっ!」
「そりゃ、呼んだからね。来るよ、フツーに。……あほげ?」
「我の前髪はアホではないっ!失礼なエルフ族の娘!何故ここにいる!エルフ族に提供する飲食物はこの店には無い!」
「え」
シルス、目が点。
「えええーっ!?めちゃめちゃ塩対応!ていうか塩辛対応!?」
「しおたいおう、って……ナニ?」
「対応がしょっぱい、って事です!」
「へー、なるほど」
と、対応が呑気なシュレス。
「エルフのコムスメ!我にかけた呪いを解く方法を教えるがいい。さもなくば、我が魔剣『死せる嵐のデスストームデスデッド』がオマエの首をはね飛ばす!」
「ファル……おしぼり構えてナニ言ってるの?」
「しかも意味がだだかぶってます!あと、わたしっ、ハーフエルフですっ」
「エルフに変わりなかろう!そこになおれっ!」
「ファル、落ち着いてー。このコはシルスちゃん。なんか、わざわざファルに会いに遠くから来たんだって。話くらい聞いてあげようよ」
「我に会いに、だと?ハーフエルフのコムスメ!キサマ、エルフ族からの斥候か!」
「せっこう、てなんですかっ!?」
「偵察とか監視、って感じかなー」
シルスの問いかけにやんわりと答えるシュレス。
「怪しい奴め……何処で我の事を知ったのだ!?」
「あのあのっ!わたし!夏休みの思い出作りの為に『ピー』から転移魔法で来たんです!ファルナルークさんの事は写真で知って、ステキな人だなあってずっと思ってて、こんなステキな人と旅ができたらどんなに楽しいだろうなって!
だから!ファルナルークさん!わたしと一緒に旅をして下しゃい!」
「写真?ますます怪しい!おかしな音も怪しい!初対面のハーフエルフのコムスメと旅なぞ出来るハズもなかろう!」
無表情でツンと冷たく言い放つファルナルーク。
シルスが思わず言ってしまった『禁止語句』は
「ファルぅ……さすがにちょっと冷たくない?今のアタシ達は客だよ?ほらほら、営業スマイル忘れてるよ?」
見かねたシュレスがたまらずファルナルークをたしなめる。
ファルナルークは、仕方なく、といった感じで片方の口の端をきゅう、っと吊り上げ不適にニヤリと笑ってみせた。
「ファル……それはスマイルじゃないよ……」
「カッコいい……」
「え?」
「クールでカッコいいです!ヤバいです!」
ファルナルークの冷たい態度は、シルスには逆効果だったようだ。
「めげないコだねー。いいねー、気に入った!ねえ、ファル!今日でバイト終わりじゃん?アタシ達も行き当たりばったりの旅なんだし、シルスちゃんの旅に付き合ってあげようよ!」
「我に呪いをかけしエルフ族の仲間だぞ!そんな者と旅なぞできん!」
「わたしが!ファルナルークさんにかけられた呪いを解きます!でも、それはアールズの街に行かないと出来ないんです!」
「アールズ?……西にある大きな街だね」
「アールズに、メレディスさんて魔女がいるんです。その人なら、呪いを解く方法を知ってるハズなんです!」
「それなら、我がその魔女に会いに行けばいいだけの事。ハーフエルフのコムスメが呪いを解く訳ではないのなら、コムスメは必要なかろう」
最もな正論である。これにはシルスもぐっ、と返答に詰まってしまった。
「話は終わりだ」
ふいっと背中を向けるファルナルークの前に素早く回り込むシルス。
「わたしもメレディスさんに会わないといけないんです!メレディスさんに会わないとわたし、帰れないんです!
大切な伝言を預かってて、それを伝える目的もあるんです!だからわたしをアールズまで連れて行って欲しいんです!
一緒に旅をしたいんです!わたしが一緒に旅したいのはファルナルークさんなんです!
ファルナルークさんじゃないとイヤなんです!
ファルナルークさんじゃないとダメなんです!
ファルナルークさんじゃないとイミないんです!
お願いします!ファルナルークさん!ファルナルークさん!ファルナルークしゃあああん!」
一息で一気にまくし立て、押し倒しそうな勢いでグイグイとファルナルークに迫るシルス。
「わ……わかったから。近いから」
ファルナルークは思わず後ずさる。
「おおう。ファルが気圧されてる。珍しい!やるねーシルスちゃん!」
「あのあのっ、お二人にお願いがあるんです!わたしをアールズの街まで護衛して下さい!そしたら……わたしの、み……耳っ……舐めてもいいでしゅからあっ!」
シルスは真っ赤になりながらも、真剣な眼でファルナルークを見つめた。
「……耳なんて舐めたくもない。我がそんなおかしな性癖の持ち主に見えるのか、ハーフエルフのコムスメよ……っ」
「あれっ?えええっ!?」
「あっははー!あはははー!ごめんね、シルスちゃん!ファルも耳ペロ好きなんてウソだから!」
シュレス大爆笑。
「えー!?ひどいですようっ!」
「ごめんねー!でさ!アタシは昨日でバイト終わったし、ファルは今日までなんだよねー。次の行き先決めてないから、アタシとしてはかまわないんだけどぉ……」
とその時、若い男二人がシュレス達に声をかけてきた。
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