第27話
食事が終わるとルードルフに連れて来られたのは貴族専門の書店だった。五階建てのそこはどの階に行ってもどこを見回しても本という幸せ空間。
めちゃくちゃ癒されるわ。
「嬉しそうだね」
「はい、幸せです!」
だらしない笑顔で返事をする。
しまったと思ったのはルードルフが驚いた表情を見せてからだった。
でれでれと変な顔になっていたわね。
恥ずかし過ぎて死にそうだ。赤くなった頰を両手で隠す。
「すみません、変な顔になっていましたね」
気持ち悪い顔を見せてしまった事を謝ると「違いますよ」という声が降ってくる。
顔を上げると真っ赤になったルードルフが腕で口元を押さえていた。
熱でも出たのかしら?
首を傾げていると深く溜め息を吐かれてしまう。
「で、ディアがあまりにも愛らしい顔をしていたから…」
「へっ?」
「急に可愛い顔を見せないで欲しい」
可愛いって私の事よね?
クラウディアの顔面偏差値は高い。美人と褒められる事は多いけど可愛いと言われる事は少ないのだ。
嬉しさで頰が熱くなる。
「て、照れているルード様も可愛いですよ」
照れ隠しで余計な事を言ってしまった。
私の言葉にルードルフの頰の赤みは抜けていく。やがて悪魔のような笑みを浮かべ始めた。
この人に可愛いは駄目でしょ。
「誰が可愛いって?」
低い声が響いた。
ルードルフは小さい頃から可愛いと言われるのが苦手、嫌いと言っても過言ではないのだ。
前に言ってぐちぐちと一時間以上の説教を喰らった事があるのだ。同じ轍を踏むとは我ながらにアホ過ぎる。
「ディア、説教が足りなかったのかな?」
「ち、違います。今のは口が滑ったというか…」
「口が滑ったって事は可愛いと思っていたのは本当の事みたいだね」
腰を抱いて怖い顔を近づけてくるルードルフ。自分の考えなしの発言に呆れてしまう。
「本を見る前にお説教にしようか」
「いや、あの…。本を見たいのですが…」
「駄目だよ。恨むなら失言をした自分を恨んでね」
目の前に天国があるのに側に居るのは悪魔だ。
無駄に良い笑顔を浮かべた悪魔は「じゃあ、移動しようか」と私を地獄に誘おうとする。
「で、ですが、時間が無くなってしまいますし…」
どっかの誰かさんが遅れたせいで遊ぶ時間が少ない。
その気持ちを込めて伝えると察しの良いルードルフは表情を歪める。
「ルード様への贈り物を買う時間が無くなるのは嫌なので…」
私の贈り物で引き止められるとは思わないけど…。
そう思っているとルードルフは溜め息を吐いて、じっとこちらを見つめてくる。
「今回は見逃すけど次は無いよ」
「え?」
「さぁ、行きましょう」
手を引いて書店の中を歩いていくルードルフ。
よく分からないが許して貰えたらしい。
天国を楽しめそうで良かったと安堵の息を吐いた。
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