第26話

「ディア、どこに行きたい?」


ルードルフに問いかけられるが城下町については詳しくない。返答に困っていると「とりあえず昼食にしましょうか」と提案されるので頷く。

彼に案内されたのは学生が来るようなレストランじゃなかった。

流石は王子様だ。

店内に入って通されたのは広めの個室だった。


「あの、二人きりは不味いかと…」


婚約者であろうと男性と二人きりになるのは不味いと思う。貴族社会というのはちょっとした事が醜聞に繋がるような世界なのだから。外で待機しているキーランドに入ってもらおうとするが手を掴まれてしまう。


「大丈夫、誰にもバレないよ」

「そういう問題では…」

「折角のデートなんだ。少しでも長く二人で居させてくれ」


懇願するように言われては私に拒否権はない。

せめて離れたところに座ろうと思うが何故か隣に腰掛けてくるルードルフ。

いやいや、近過ぎでしょ。

ちょっと動くだけで膝小僧がぶつかる距離に座るルードルフに戸惑いを感じる。


「ルード様、ち、近いですから」

「駄目?」

「て、店員の方に見られたら困りますから」

「気にしなくて良いから」


気にするから。

最も世間の目を気にしないといけない存在なのに無駄に堂々しているのだろうか。

母親である王妃様に叱ってもらいたいところだけど、あの人の性格を考えると「仲良しなのね」と笑われるくらいだ。

ルードルフの兄であるバルデマーに言ったら……私が叱られそうなのでやめておこう。


「店員が来たら離れてくださいね」

「仕方ないな」


仕方ないはこっちの台詞だからね。

言い返そうと思ったが何を言ってものらりくらりと躱されてしまうだろう。

中身が大人な私は自分が引く事にした。


「ディアは何を食べますか?」

「ルード様のお勧めの物で良いです」


ルードルフはかなりのグルメだ。

彼のお勧めなら間違いないだろうと思って投げやり気味に返事をしてしまう。


「じゃあ、ディアの苦手な物を選ぼうかな」

「魚介類以外にしてください」


魚料理はあまり好きじゃないのだ。

よく一緒に食事をしているルードルフは私の好き嫌いを熟知している。悪戯っぽい笑顔を向けてくる彼に深く溜め息を吐いた。


「適当に返事をする方が悪いよ」

「ここに来るのは初めてなので任せたかっただけです」


適当に返事をした私が悪いけど子供っぽい嫌がらせはやめて欲しい。拗ねたような表情を向けるとルードルフは楽しそうに笑った。


「それなら仕方ないね」


今度から適当に返事をするのはやめようと心に決めた。

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