第23話

涙が落ち着いてから暗殺者に狙われたかもしれないという話をルードルフにすると驚いた表情を向けられる。

どうやら私に何かあったという話だけで生徒会室まで走ってきたらしい。


「ディア、本当に大丈夫ですか?一人ならないように言ったじゃないですか」

「す、すみません…」


ルードルフから忠告は受けていた。王子の婚約者である自分が狙われるという自覚もあったけどまさか学園内で何かされると思っていなかったのだ。

落ち込む私を他所にルードルフはバルデマーは会話を繰り広げる。


「兄上、ディアを狙った犯人は捕まったのですか?」

「捜索はさせているが犯人の情報は何も掴めていないそうだ」


掴めている私が見たという男子生徒は風邪で学園を欠席していたそうだ。本人が屋敷に居た事は確認が取れている為、彼は犯人じゃないのだろう。

私を狙った犯人は手練れだ。今回は運良く逃げられたけど次は分からない。ただ犯人が主体的に私を狙ったわけじゃないはず。私を恨む貴族の誰かが差し向けてきたという事は分かるけど一体誰が…。

思い当たる人が多い中で一人だけ異色な存在があった。


「バルバラ?」


たった一週間前に消しやると宣言を受けたばかりだ。命を狙われる可能性としては考えられる。しかし彼女は平民。暗殺者を雇う術はないはずだ。

私の言葉に過剰反応をしたのはルードルフだった。


「あの女が犯人ですか?」

「い、いえ…。彼女は平民ですから暗殺者を雇えないと思います」

「しかし彼女にはお金を貸してくれる人ならいくらでも居るでしょう」


バルバラは貴族の男子を侍らせている。彼女に唆されて私を狙う人間が居てもおかしくはないのだ。

ただ彼女を取り巻いているのはあまり身分が高くない貴族達である。公爵令嬢である私を敵に回すような真似をするのだろうか。


「とにかくあの女には警戒を…」

「バルバラとは誰だ?」


私とルードルフの会話に入ってきたのはバルデマーだった。攻略対象者の一人である彼がバルバラを知らないとは意外だ。

ルードルフに言い寄ろうとしたり、アロイスを誑かしたりしていたけどバルデマーには近付かなかったのだろうか。


「ディアを貶めようとしている平民の女ですよ」

「平民の?」


バルデマーは考える素振りを見せた後「あぁ」と何かを思い出したような声を漏らす。


「最近私の周りをうろうろしていた怪しい平民の女が居たな。その名前がバルバラだったはず」


顰めっ面で呟くバルデマーは婚約者の存在が居ない。それ故に女性に追いかけ回されるのは日常茶飯事なのだ。大勢の中の一人を覚えていなくとも不思議じゃないけど。

ヒロインを覚えていないってどういう事なのよ。しかも迷惑がっているし。


「そのバルバラがクラウディア嬢を狙っている可能性があるのか?」

「大いにあり得ます」

「それならばバルバラとやらを監視しよう」


王族が平民を警戒する必要があるのかと思うがこの二人は言い出したら聞かない。

彼女の潔白が完全に証明されるまではついて回る気だろう。


「それからディアには護衛を付ける事にします」

「え、流石にそこまでしなくても…」


護衛を付けられたら行動が不自由になるので勘弁して欲しい。

そう思うが許してくれる婚約者じゃなかった。


「これは決定事項です」


やたらといい笑顔で言われてしまった。

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