第3話
前世を思い出したあの日からもう四年が経っていた。
我儘を言わなくなった私に屋敷中の人間が驚き「本当に我儘をやめたのか?」と疑惑の目を向けた。今までの生活を考えれば彼らがそう思うのは当然の事。私は文句を言う事をしなかった。
お父様とお母様も私の変化に戸惑っていたと思う。
二人で顔を見合わせる回数が多かった。その光景はまるで「あの我儘なクラウディアはどこに消えたの?」と話しているように見えた。
そんな私を支えてくれていたのは私の我儘で専属の侍女となってくれたヒルマだ。
「いつか分かってもらえますよ」
そう言って笑う彼女に何度元気を貰った事か。もう数え切れないくらいだ。
両親を始めとした屋敷に住む全員が我儘でなくなった私を受け入れたのは二年前の事だ。まさか納得して貰うまで二年もかかると思っていなかった。
「クラウディア様、朝ですよ」
カーテンを開け、こちらに笑いかけてくるヒルマを睨んでしまったのは寝不足のせいだ。
昨夜は遅くまでお父様に買って貰ったミステリー小説を読んでいたのだ。それが面白くてついつい読み耽ってしまった。
「また寝不足ですか?ちゃんと寝ませんと…」
「小説が面白くて…」
「たった四年前まで活字を読まず屋敷を駆け回る事ばかりだったお嬢様が小説を面白いと言うとは驚きです!」
元気良く言うヒルマに「さらっと毒を吐くようになったな」とちょっと悲しくなった。
それだけ心を預けてくれているって事なのでしょうし、四年年前まで文字を見ようともしなかったのは事実だ。子供だったから仕方ないと思うけど返す言葉もなく苦笑いをした。
「さて、支度しましょうね」
眠いまま立ち上がるとヒルマは待ってましたと言わんばかりに空色のワンピースを持ってくる。
これで良いですか?と聞かれるので片目を擦ったまま頷けば魔法のような速さで服を変えられた。
成人した日本人という前世を持つ身からしたら着替えさせて貰うというのは些か恥ずかしいものがあったが流石に四年も経てば慣れる。
「髪型はどうしましょうか?」
「ふぁ……ヒルマにまかせる…」
大あくびをすると鏡越しにヒルマの苦笑いが見えたけど見なかった事にした。彼女から視線を外して前を向くと鏡に映る自分と目が合う。
いつ見ても猫みたいに吊り上がった目ね。
自分の容姿を客観的に見れば、美少女に分類されると思う。しかし吊り上がってキツく見えてしまう目が美少女を半減させているような気がする。
「今日もお嬢様は愛らしいですね」
私の気持ちを察してか、もしくはただの偶然か。私の髪を梳きながらヒルマは笑いかけてくれた。
やっぱり褒めて貰えるのは嬉しい。
それにしてもやっぱりどこかで見た事のある顔だ。四年間ずっと思い出そうとしているが全く思い出せない。
「誰だっけ?」
「どうかしましたか?」
「ううん、何でもないわ」
そのうち分かるでしょ。
適当に考えてしまった事を後悔するのは数ヶ月後の話だった。
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