決戦開始

 そして遂に合コンの日がやってきた!


 金曜の放課後。メンバーは一度帰宅し、シャワーを浴び、身体を念入りに洗い、各々の戦闘服に身を包み、最終決戦仕様にメタモルフォーゼした状態で、合コン会場であるカラオケボックスに集合時間の三十分前に集まった!


「モジャいいじゃんその服、オーラ出てるよ」


「アリップこそ、女子が見たらキュンキュン間違い無しだな!」


「ミノルも、普通にカッコいい」


「へへ……普通だろ?」


 戦いを前にモチベーションを上げようと、お互いを褒め合って鼓舞し合うメンバー達。


 何てったって明日は休み。今日は夜通しパーリナイ! 余力を残さずぶっ倒れるまでハッチャケてしまってもいいのである!


 そして、三十分後、槍チンが、合コン相手を引き連れて現れた!


「おう、お待たせ!」


『こんにちは~』


『こんにちはッッッ!』


 女子達の声に、童貞ズは元気良く挨拶した。こんなに素直に、にこやかに挨拶をしたのはいつ振りだろうか。


(可愛い、可愛いよ!)


(大体ギャグ漫画だったらオチ担当で一人はゴツイゴリラみたいなのがいたりするんだが……!)


(全員レベルが高いぞ! コレはもう、お持ち帰りされたい! 結婚したい! 養いたい!)


(((槍チン! ありがとう!)))


(おう、慌てるな。夜は長い。とりあえず入ろう)


 アイコンタクトで意志疎通を図りながら、粛々と速やかに入店するその様は、とても童貞とは思えないほどの無駄の無さであった。




 今回のむさ高童貞ズのお相手となる女子達について語ろう。


 むさ高と一駅隣に位置するが、決して触れ合うことの叶わない禁断の園。


 美智みち女子高……通称『ミチジョ』と呼ばれるも、一部では『ビッチじょ』などとも呼ばれている、モテない男子にとってはあまりに刺激の強いハイレベルなギャル達の通う女子高だっ!


 その顔面偏差値の高さは、『経営者は顔で合格者を選んでいるのでは?』などと在らぬ噂が立つ程である!


 男子禁制。文化祭の時ですら校内に立ち入ることを許されるのは、生徒に招かれ、申請を受理された父兄や、親しい者、入場チケットを渡された者だけである!


 オークションでプレミアがついて問題になる程のプラチナチケット! それがビッチ女への通行手形!


 基本裕福な親が通わせる閉鎖的なお嬢様学校! だがそんな厳しい親へ反発する生徒も一定数おり、何人かはギャル化していたりもする! 清楚なお嬢様とイケイケギャルが同じ空間で共存しているのだ!


 つまり、ギャルのようにノリが良く、ハッチャけつつもその実、教養も持ち合わせ、所作なども実に優雅!


 それがビッチ女に通うお姫様達なのである!


「じゃあ、えと……女子から自己紹介していこっか。あたしが、モエです……槍くんと付き合ってて、趣味は、お菓子作りです」


 可愛らしい小動物のような仕草で小さく挙手しながら、鈴を転がすような声で自己紹介を始める槍チンの恋人らしいモエ。


 普段の童貞ズだったらこの時点で槍チンに「貴様こんな愛らしい娘を自分色に染め上げたのか! 死にてえらしいな」と呪詛の一つでも送るのだが、今の彼らの心は穏やかなものだった。


(可愛いな……)


(だろ? 感謝しろよ)


(((押忍!)))


 最早テレパシーの領域である。いくら小学生の頃からの付き合いだとしても、ここまでの芸当が出来るのは、この日の為に心を一つにしてきたからであろう。


「じゃあ次あたし! ナツっていいます! 趣味はインスタ! 隙あらば自撮りしちゃいますっ!」


(でかい! でかいよ! どこがとは言わないけどすごいよぉ!)


(落ち着けアリップ! 何とか仲良くなってインスタのアカウントを教えて貰うんだ! そうすればアップされた自撮りを見放題だ!)


(よし! 見るぞ自撮り!)


「ノアで~す。趣味っていうか、特技はぁ、部活でチアやってます! フレーフレー! なんて」


(うおお俺もフレーフレーされたい!)


(されたいと言ってる時点で自分じゃないと認めたようなものだ。今のフレーは俺にしたに違いない)


(スカートだけどうっかり脚上げて実演してくれたりしないかな……エッチだ……!)


「アマネです。趣味は……そうね。アクセサリーのハンドクラフトとかやってるわ」


(うおお黒髪クールビューティ……!)


(あのクールな視線とハスキーな声、堪らんな……)


(ハンドクラフトってことは、手先が器用ってことだよね、器用ってことだよねぇ……!)


「ようし、今度は男子チームの自己紹介だな! 行くぞオメーら!」


『応ッッッ!』


 槍チンの号令に全員がババっ! と立ち上がる。さながら応援団のエール交換に挑むかのようだ。


「なんで全員立つの!? 超ウケる!」


 ナツがもう笑っている。


 どうやらハードル低いぞ! いけるぞコレ! と判断した槍チンが口火を切る。


「槍チンです! モエの彼氏やってます! 今日はむさ苦しい野郎どもの相手させちゃってごめんね! でも話してみたらいいヤツらだからさ! よろしくウェイ!」


 やはり経験値の差か。誰よりもウェイが様になっている。それでいて女子を労うと同時に他の童貞達を売り込むと言う離れ業をやってのけた……やはりイケイケリスキーボーイの称号は伊達じゃない!


「どうもこんにちはー! えと……アリップです! 今日は槍チンくんに誘われてきたんですけど、普段こういった女の子と遊ぶ機会あまりなくて……可愛い人ばかりで、その……緊張してますけど! 仲良く楽しめたらって思います!」


 リハーサル通りアリップが純情無垢なショタの仮面を付け、全力で媚を売る!


 効果は抜群! 女子達は「あらあらあら~」と頬を弛ませる!


 次弾装填! 行けモジャ! とアイコンタクトを送るアリップ。


「こんにちは! モジャ兵です! アクション映画とかが好きで、ハリウッド俳優に憧れて筋トレとかしてたら、いつの間にか身体造りが趣味になってました!」


 物は言いようである。基本的に受けが悪い趣味も、少しカスタマイズして受け入れやすくすれば大体肯定的に受け取って貰えるものだ。


 実際一番努力していたのはモジャ兵だ。様々な障害を乗り越え、今宵彼はさなぎを破り、蝶になるのだ!


「うわ~すごいガッシリしてるね! 男らしい!」


 ノアが目を丸くして、感心したような声で言う。


「あざっっす!」


「何アザッスって超ウケる!」


 ナツが大笑いする。


 お礼を言っただけでウケてる! ハードル低いぞ! 行けミノル! トドメだ! とミノルにアイコンタクトを送るモジャ兵。


「田中実です! 普通の男です! あと、英検準二級ですッ!」


 ミノル渾身のボケに、最大の笑いが起きた。勿論、笑ってもいいと誘導する為に男達が率先して笑っていたおかげでもあるが。


(うおおおおこんなにウケたの初めてだ!)


(行ける! 行けるぞぉぉぉ!)


 ミノルとモジャ兵が、ワールドカップ決勝ゴールを決めたサッカー選手の様に抱き合う。


(ベッドに入るまで純情ショタ演じ切ってやっかんなぁぁあああ!! 覚悟しとけうぇーい!)


(((うぇーいッッッッ!)))


 最高のスタートを切ったことで、士気も温度もアゲアゲである。


 プライドなどいらない。ここで本懐を遂げられるのなら、ウェイにでもなる!


 最早、彼らに迷いはなかった。

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