第3話




 ふふふ。今日は皆より早く登校して、学校の花壇の花に水をやるのよ。

 すると、クリストファーが通りかかって、


『誰も見ていないこんな体育館裏の花にまで……君の心は花のように美しいのだね』

『クリストファー様……っ』


ってなるのよ!

 だけどそれをエリザベータが目撃していて、花壇をめちゃくちゃに荒らしちゃうのよね。


 荒らされた花壇をみつけたヒロインが悲しむ姿に、クリストファーは「彼女を守る」と決意するのよ!


 さあ、やるぞー!


「せいっ! せいっ!」


 何故か悪役令嬢がクワ持って花壇を耕しているけれど気にしない! 気にしな……気になるわ!


「何してんのよっ!?」

「あ、オハザース!! 日課の畑仕事っス!」


 公爵令嬢の日課に「畑仕事」なんて組み込まれるわけないでしょ!! スケジュール管理してる執事のクビが飛ぶわよ!!


「やあ、おはよう。二人とも、早起きだね」

「クリスファー様……っ」

「チィーッス!」


 くそぅ! 本来なら花壇の花にうっとりする乙女の姿を目撃されるはずだったのに、ほっかむりした悪役令嬢のせいで理想のシーンがぶちこわしよ!


 でもでも、ここで悪役令嬢の好感度を落としてしまえるのでは?


「クリストファー様っ、私、美しい花壇を見たくて……それなのにっ、エリザベータ様がっ」

「花咲いてるッスよ!」

「黙りなさい! 私が見たかったのは茄子の花じゃないのよ!」

「えっ、じゃあ向こうの畑にマメの花が咲いてるッス!」

「なんで学園の花壇がアンタの家庭菜園になってるのよ!? 職権濫用よ!」


 あああ! 悪役令嬢が邪魔!! いや、悪役令嬢に邪魔されるのはシナリオ通りだけど、私が求めていたのはこういうのじゃない!!


「エリザベータ!」


 はっ! あれは女好きの遊び人だけれどそれは孤独な心の裏返し、両親の関心を妹に奪われて荒んだ心をヒロインに癒されて恋に落ちる攻略対象その4の公爵家嫡男!!


「お兄様、チィーッス!」

「お前の愚行にはほとほと愛想が尽きた……っ!」


 おお! ようやくエリザベータを窘めてくれる人が!! よし、やっちまえ! クリストファーは役に立たねぇ! お前だけが頼りだ!


「肥料は○×商会のものを使うべきだ! お前が使っている××商会のものは昔からある商品! 新しく改良されたものの方が作物に合うだろう!」

「そんな! お兄様、××商会の肥料は農夫からの信頼の厚い優れた商品です!」

「だが、農夫の大半は○×商会の肥料に切り替えている! 頭の硬いものだけが古いものにしがみついている! 新しいものを柔軟に取り入れることが出来なければ取り残されるだけだ!」

「何の話をしてんのよ!!」


 突如勃発した公爵家兄妹の肥料論争に私は口を挟んだ。


「そんなの、二つの肥料を植物によっていい具合に使い分けるか、絶妙なバランスを見つけ出して混ぜ合わせるかすればいいだけでしょ!」

「はっ!」

「そうか!」


 二人ははっと気付いたように目を見開いた。


「君の言う通りだ」

「ありがとう。大切なことに気付かせてくれて」

「公爵家兄妹の諍いを収めてしまうだなんて……君はすごい子だね」


 攻略対象と悪役令嬢に感謝され、クリストファーに感心されたが、なんか違う。

 私はこんなことがしたかったんじゃないのよ!



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