アフター2 一軒家を買うに至るまでにあったこと① 『―――引越し先を決めるぞ!』

アフター第二弾となります。私自身が何も設定やらなにやらを考えずに始めたこともあり、いきなり時系列が変になりました。すみません。今回は題名にある通り、アフター1の状態へなる前の話となります。どれだけ続くか正直わかりませんが、お付き合いいただければ幸いです。


というわけで、アフター2どうぞ!


――――――――――――――――――――


 俺と響子が結婚してからしばらく経った。響子はすでに俺との東京での生活に慣れ、研究所内でもかなりの成績を残しているそうだ。俺は変わらず津田の親父さんのもとで働いている。そんなある日のことだ。


 ◇


「引っ越しをしよう!」


 俺は仕事もなく、そして響子も研究所へ行かなくていい日を狙ってそう言った。響子はそれを聞き、首をかしげた。


「どうして?別に不都合とかないと思うけど·········?」


「いや、あるだろ」


 俺はこれまでの響子の生活を思い返した。一番印象に残っているのはやはり響子が来た日だ。あの日は響子の荷物類を片付け、簡単にアパート周辺を歩いたくらいだが、やはり思い出深いものがあった。4年間直接は会わない期間を超え、1年の準備期間を終えてこうして結婚したのだから当然なのかもしれない。


 しかし、しかしだ。


 次の日、響子は研究所へ、俺は事務所へ行った。ここで問題が発生した。響子が通うこととなるその研究所が俺たちの住んでいるこのアパートから結構離れているのだ。そのため、響子は俺より早く家を出るのだ。とどのつまり、響子にとってちょっとした負担になっているのだ。

 これまで響子は弱音を吐いたりしていなかったが、ちょっとした負担が重なり、響子が病気となったらどうするのか?

 俺はそう考えだしたら、仕事が手につかなくなるほどのパニックになった。中村さんに『休憩所に行ったら?』と心配されるくらいやばかった。


 俺は響子に懇切丁寧に説明していった。俺が話していくに連れて、響子は苦笑いを浮かべ、最終的にはため息をつき始めた。


「当麻くんが言いたいことは分かったよ。そのうえで言うね。当麻くんのそれは“過保護”だよ」


「過保護?どこら辺が?」


「私が当麻くんより家を早く出るのが嫌なわけでしょ?よくあるあるのお父さんに多い娘が自分より先に出るからって理由で引っ越すやつだよね。当麻くんの理由はまさにそんな感じだよね」


「·········響子は俺の娘じゃないから当てはまらないだろ········」


「当麻くんが私のお父さんなのはちょっとなぁ·········」


「············」


 ··········これは嫌われたということか?


「だって当麻くんはさ、前に言ってたでしょ?対等な関係じゃなきゃ嫌だって」


 それは確か高3のときにメイド服がどうのこうの言ってたときに言ったやつだ。

 メイドはその名の通り、仕えている人に奉仕する。言われたこと、命令に従わなくてはならない。その関係の中には“対等”なんてものはない。俺は当時、それを嫌がったのだ。しかし、響子はそんなことまで覚えていたとは········。


「だから、別に心配いらないよ。痴漢とかだって問題ないし」


「響子がそう言うならいいが、それとは別件でこの部屋、狭くない?」


「··········それ、当麻くんが言うこと?」


 響子がジト目で俺を見てきたが、俺はスルーした。

 俺と響子が住むこのアパートの一室はもともと俺一人が住むことを考えて選んでいる。それも事務所からなるべく近いところをだ。だから、響子が行く研究所から遠いという事態が起こっているわけだ。

 響子用の一人部屋をそういったこともあって用意できていなく、俺と共同の部屋となっている。

 部屋数も多くなく、リビング、俺と響子の共同部屋、それぞれの寝室の計4部屋。俺が一人のときは響子の寝室に事務所での仕事の書類やらを入れたりしていた。が、響子が来てからはそういうわけに行かず、事務所に俺用の棚の中を用意し、その中に入れることで解決はしたからこの件はいいが。しかし、満足に家具を置くことができなく、手狭なのが現状だ。


「とりあえず、もう少し広い家にしよう。アパートじゃなくてマンションにするのがいいかもしれないな」


「でも········お金がかかるんじゃ·······」


「金の件は問題ない。俺もそこそこ稼いでいるからな」


 俺も一応は弁護士だ。依頼がなくても美愛さんたちからの事務仕事があるから、収入そのものはそこそこいく。無駄遣いさえしなければ余裕があるくらいには、な。響子はまだ医師として働いているわけではないが、それもあと2年ほどだ。問題ない。


「とりあえず、不動産に行かないとだな」


「えっ?今日行くの?」


 俺が身支度し始めるのを見て響子は驚いていた。


「思い立ったが吉日って言葉があるだろ?それにこうして二人そろって家にいるのも珍しいしな。二人が納得できるものを探しに行こうぜ」


「ハリキリすぎでしょ·······」


 響子はなにやら呆れたようにしていたが、俺に続き身支度をしだした。


 ◇


 俺と響子は不動産に行き、いくつかのマンションの情報が載るチラシをもらい、自宅へと戻った。


「とりあえず、この中で良さげなのがあるか見ていくか」


 チラシにはしっかり部屋数や大きさ、どんな感じの部屋なのかが書かれている。だが、しっくりこない。


(なんかぱっとしないな········。もっとこう、あれがほしいんだけどな。あれってなんなのか自分でもよくわからんけど)


 俺は隣に座る響子を見てみた。家を出る前までは消極的であった響子だが、チラシを隅から隅まで見ている。そして、俺の視線に気がついたのか、はたまた良い物件があったのか響子は顔を上げた。


「当麻くん、これどう?」


 俺は響子が指差すのを見ると大きさとしては今より大きく、55平方メートル。一般家庭としては余裕があるほうだ。場所も事務所から遠くなく、響子の行っている研究所からも遠くないいい立地条件だ。しかし、部屋数が4だ。


「部屋は5つあったほうがいいだろ」


「そんなに必要かな?」


「必要だろ。リビングに俺と響子の自室と寝室。5つはマストだろ」


「自室はほしいし、リビングは必要だし·······うーん、あっ、でも···········し、寝室を一緒にすれば4部屋で済むよ?」


「何言ってるんだよ、響子。俺と響子は男と女。分けるのは当たり前だろ··········」


 高校のときからそうだっただろうに響子はどうも破天荒なことを言う。だが、響子は不満があるようだ。顔を膨らませて、俺の胸板辺りをポカポカ叩いてくる。


「未だにそんなこと気にしてるの当麻くんだけだから!寝室が同じなんて夫婦の間じゃ当たり前だから!」


「そんなわけあるかよ。響子、もう少し自分のことをだな··········」


 俺は響子の体に視線をやり、そして、すぐにそらした。あかん。これはあかん。順も言っていたが、女というものは恐ろしいものだ。深い沼のようなものに足を取られれば抜け出せなくなるように女という存在もそうなのだ。それは、すなわち女=深い沼みたいな図式が成り立つようなものだ。

 響子はなにやら俺の視線に気づいたようだ。自身の体を抱きしめるようにして、俺から距離を取った。


「おい、響子。なんか誤解してるみたいだから言っておくが、俺はお前の体に欲情したりしない」


「撫で回すように見たのに?」


「見てない!」


 誤解まねくような言い方をするな!言いがかりをつけるな!


「でも、意識してるからダメなんでしょ?長野旅行のときは同じ部屋で過ごしたじゃん」


「あのときとは違うだろ······。とにかくダメーーーーーーッ!!」


 響子が俺にキスしてきた。俺は目を見開きながら響子を引き離すように体を押すが、響子の目を見て俺はやめた。すぐに響子は離れた。


「···········響子」


「···········」


 下を向いたまま響子は何も言わない。俺はそんな響子を見て、過去の一件がまだ響子の中で忘れられていないのかと思った。


「響子、何か悩みがあるなら言ってくれよ?話を聞けば二人で考えられるだろうから」


「じゃあ、一つだけいい?」


「ああ」


「どうして、当麻くんは私と“エッチ”しようとしないの?」


「ゴホッゴホッ!」


 俺は咳き込んだ。机に手を付き、体の震えを耐えた。俺は今何を聞かれた?気のせいだよな?そうだ。きっとそうだ。あの響子がそんなことを言うはずがない。


「響子、もう一回言ってもらえるか?上手く俺の耳が聞き取らなかったみたいだからな」


 俺は軽い調子でそう響子に聞くと響子の顔が真っ赤になった。


「に、2回も言わせるの·········?」


「··········」


 この反応。もしかして·········?いや、だが、あの響子のことだ。何か深い意味があってのことに違いない。


「いや、もういい。響子が言いたいことはなんとなく理解した。その上で聞くけど、そんなことをする必要はあるのか?俺はこうして響子と二人で過ごせているだけで満足なんだが」


 これまでの日々は総合して見ると楽しいの一言だ。高校時代も楽しかったが、今はこうしてお互い夢のために頑張れるということがなによりいい。漠然とこんな夢が叶えばいいなと思っていたときとは違う。夢の実現のために実際に動いているのだから、当たり前といえば当たり前だが、それでも今の生活に俺は満足している。楽ばかりではないとはいえ、響子も俺も協力しながら生活できているということは養ってもらっていたときとは違って、達成感に満ちている。こんな日々が長く続いてほしいと思う。

 響子がそういった行為を求めている?のかはまだ良くわからないところだが、響子自身は今の生活に不満があるのだろうか。普段、そんな風には見えないから考えづらいのだが。


「響子は今の生活に不満があるのか?それとも俺にダメなところがあるのか?あるなら、治す努力をするから遠慮なく言ってくれ」


 ある人物いわく、結婚生活において“男が尻に敷かれるほうが上手くいく”らしい。俺は対等な関係でありたいから御免被るが。


「べ、別に不満はないよ。毎日楽しいし。でも、その·········家康くんと静香ちゃんの二人を見てたら、羨ましく思って」


 家康くん、静香ちゃん。二人は俺の高校時代の友人でそれぞれ徳川家康、徳川静香という。高校のときに水泳でインターハイに出場するほどの実力者で、今はスイミングのコーチをしているそうだ。選手としては引退しているが、陰ながら教え子たちの指導に励んでいると聞く。


 俺はそんな二人のことを思い出しつつ、響子の言っていた意味を解釈していく。


「羨ましいってのは、つまり、ああいうバカップルみたいなのがいいってことか?」


「当麻くん、言い方が悪いよ」


 響子から注意を受けた。

 俺がそのように言いたくなるのにも理由がある。あの二人は子供ができたにも関わらず、たまに同窓会的なものを6人で開くとひと目も憚らずにイチャつき出すのだ。見ていてうっとうしいとすら思うくらいに。


「そうじゃなくて、二人の子供。あれが羨ましいなぁって思ってるの」


「子供ねぇ·········」


 家康たちの子供の名前はなんといったっけ?あっ、思い出した。女の子で名前は涼香だった。二人の名前から考えようとしたらしいのたが、あまり良いものが思いつかず、家康が『女だから静香から多く文字を取ろう!』なんて言って決まったらしい。なんとも適当なと思いはしたが、名前そのものはまともというか、かなりいいのではないか?名付けをしたことがないからわからんが。


「それがどうしたんだ?」


「私もその········将来的には当麻くんとの子供がほしいなって」


「···········!!」


「名前は女の子だったら、“麻子”。男の子だったら········どうしよう?」


「それなら、“響”なんてどうだ?」


「私の名前しかないじゃん」


「別になくても問題はないだろ。というか、子供の話は今はいいだろ。ほら、引っ越し先を決めるぞ」


「ふふふふっ、当麻くん。顔真っ赤」


「~~~~~~~~~ッッッ!!」


 結局、俺は響子にからかわれるだけからかわれた。それと引っ越し先は響子が提案したところに決定した。

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