アフターストーリー
アフター1 思い出の人形
アフターストーリーとなります。
書く予定がないと言いながらなんやかんやで書いてしまいました。
『ありふれた職業で世界最強』という作品を知っているでしょうか?あの作品も現在ではアフターストーリーを出していると思います。それに習い、自分もやってみようと思い、書いた次第です。
今後は【過去編】を出しつつ、番外編を出しつつ、アフターストーリーも出していこうと思っています。正直、設定も何もない見切り発車なので書くのにかなり時間がかかるかもしれないですけど、頑張ろうと思います。
というわけでアフターストーリースタートです。
――――――――――――――――――――
チュチュ。鳥の声だ。
俺は眠りから覚めるとベッドから腰を上げた。 カーテンがしっかりと開けられており、眩しい光が俺を照らす。天気はかなり良い。今日は良い日になりそうだ。
俺は右側を見るといつもいるはずの存在がないことに気づいた。ベットにいないことから“ 響子 ”はもう起きていることを知ったのだ。昔はベットから落ちても起きていなかったのにな。人は変わるものだとはよく言ったものだ。響子の成長?というのはどことなく嬉しく感じる。
しかし、夢の中で長野旅行のことを思い出すとはな。
ベットを見ると俺があの日渡した人形が2つ置いてある。
『大事にしろよ』
俺は確かにあのとき、そう言った。だが、大人になってまで持っているというのはどうなのか。やっぱ成長してないのか?だが、俺は大事にするように言った。その約束を守っているとも思える。律儀というべきか。まあ、どうでもいい。
俺は、ササッと着替えるとリビングに向かう。この家は俺と響子が頑張って働き、稼いだ金で買った。もともと住んでいたアパートから出て、一軒家だ。全額払い終えてる。ローンはないぜ。やっぱなる仕事は弁護士か医者だな。
俺は、フワッと、あくびをしながら歩いていくと響子は、テレビを見ていた。すぐに俺に気づき、
「当麻、やっと起きたの?」
「ああ、いつも早起きだな、響子」
「フフ、何言ってるの?」
「長野旅行のときはベッドから落ちても起きなかったのに今はこうして俺より早く起きてるだろ。これを早起きと言う以外になんと言うんだ?まあ、俺からしたらだがな」
「あのときは、まだ、その············当麻の隣にいるのにふさわしくなかったから·············」
響子は、そう言って、顔を赤らめた。俺はなんと言うか気まずくなり、顔を背ける。俺は過去の状況のことからどう対応するかを考える。ここで俺の経験が役立つ。
過去にこんなことがあった。俺が何か失言というか、こっぱずかしいセリフを言ったときさっきのように顔を赤くしていた。俺は「霜焼けか?」と尋ねた。耳でも霜焼けになると聞いたし、響子も耳が真っ赤だった。もしやと思って言った。すると、どうなったか。響子に激怒された。ふざけてんのかと声を低くして言われたときはヤバかった。すぐにご機嫌を治すためにお高い響子の好きな物を買ってやり、なんとかいつもの調子に戻ってくれたときはホッとしたものだ。ここに至るまでの道のりは険しかった。この関係も遂に終わりかと諦めかけた。まあ、終わりよければすべて良し。結末がいい感じになったから取り敢えず良いだろう。
閑話休題。
「んまぁ、何だ。響子なりに頑張って早起き出来るようになったんだろ?だったら、それで良くね。それより早く早く飯、飯」
「················そうだね」
響子はそう言って素早く朝飯の用意をし始める。俺は、その間、見守っていた。何で手伝わないのか。それは、何でも響子自身が自分でやるから手伝わないでと言って来たものでな。俺はそれなりに料理出来るのになんでやろ?と思わなくもない。けど、何言っても響子には分かってもらえないし、楽できるならそれに越したことはないしな。疲れてそうなときは流石に無理に言ってでも手伝うけど。
「それよりなんで今になって長野旅行のこと思い出したの?」
響子は当たり前のように疑問に思ったことを直球に聞いてくる。
「いや、何、あの旅行で射的をしてたことを夢でみてな。それで思い出したんだよ」
「射的ってあれ、人形の」
「そうだよ」
「意地になってやめなかったやつか」
響子はボソリとそう呟く。俺の耳に聞こえる大きさで。俺は、過去の出来事を思い出し、恥ずかしくなった。クソッ。
でも、俺は、あのときのことは後悔していない。否、あの日々を後悔したことはない。
「うるせぇ!」
取り敢えず、俺はそう反論する。響子は、そんな俺を見て、微笑む。良いものを見たみたいな意味をはらんでいた気がして俺はより一層恥ずかしくなった。
「でもあのときのことは感謝してるよ」
響子は、俺を慈愛に満ちた目を向けてくる。俺はまだ顔を赤くしたままではあったが、響子の顔を見たらどうでも良くなった。ほんとに響子には敵わないな。
俺は、あのときほど祭りを楽しんでいた日はないと自負している。響子と結婚してから祭りには毎年行くようになったが、やはりあのときほどは楽しいと感じなくなった。いや、楽しいという気持ちが“ 幸せ ”という別の言葉に変わったとも言える。
これまでに何度となくあった理不尽極まりないことも俺一人ではなく、響子とともに乗り越えてきた。だからこそ思い出す。あの懐かしきあの日々を。また、あの日々を送りたいと何度思ったことか。あんな楽しいと感じたことはあっただろうか。
「そうかよ」
俺はぶっきらぼうにそう言った。少し照れくさいように感じるが、いつも俺はこうして響子にからかわれるのだ。昔から変わらない。
「照れないでよ、当麻」
「別に照れてねぇし。それより朝飯はなんだ?」
俺は早口にそう言うと椅子に座る。響子は、朝飯を作り終えている。だが、料理を運んでこない。俺は、響子の顔を見ると、ニヤニヤした響子が目に写った。
「フフ、結局、照れてるじゃない」
「もうその話はいいんだよ!それより朝飯だろ?俺は仕事あるしよ」
「そうだね。今日はジャーン。ご飯と味噌汁、そして、愛情たっぷりの野菜ジュースでーす、キャピ☆」
響子は、そう言ってウィンクをしてきた。俺はそれを冷めた目で見る。これはどう反応すべきか知らないなぁ。変なことを言えば、ろくな目にならないし、取り敢えずスルーするか。
「····················」
「無言止めて!!」
今更になって恥ずかしがる響子を見て俺はため息をつきそうになった。大人になってから色々とファッションやら何やらに力を入れているのは知っていたが、ここまでになるとは。すごく何というか、痛いヤツになってしまったな。残念だ。未だに顔を赤くしたまま、響子は俺を上目遣いで見てくる。はあ、取り敢えず聞いとかねぇとな。毎度のように。
「響子、次はなんの影響を受けたんだよ。りずはの入れ知恵か?」
「ち、違うし。そんなんじゃ、ないから···············」
響子は、モジモジと手を重ね合わせ始める。こういうときにトイレ行きたいのか?と聞くと痛い目に合うのを俺は知っている。経験則上な。一度やって朝飯抜かれたからな。仕事があるときに朝飯抜きだとなかなか辛いんだよ、これが。コンビニで買う暇すらないから家帰るまで飯抜き状態。付き添いでついてきている中村さんという女性に心配されたくらいだ。今では懐かしい話だ。いや、そんな前の話じゃないか。まぁいい。
「はぁ、まぁ、何でも良いけどさ。今日の朝飯は何、ご飯に味噌汁、んで、“愛情”たっぷりの野菜ジュース?」
俺は嫌味も込めて愛情のところを強調した。ククッ。さっきの恨みを晴らしてやるぜ。
「や、やっぱ止めて。自分でも変なこと言ってる気がしてきたから···········」
手をフリフリとしながら今まであったことをなかったことにしてと言外に俺に言ってくる。だが、俺は無視する。
「いや、大丈夫だ。お前はもとから変だから」
響子の恥ずかしがっている姿はなかなかお目にかかれないしな。この際、じっと見るのも悪くない。
「それはそれで失礼だと思うけどなぁ」
響子は、何か諦めたかのような顔をしている気がしたが取り敢えず無視する。変に話を振るとろくでもないことになるからな。これも経験則上な。経験大事。マジ大事!
朝飯を食べながら、朝のニュースの話をする。俺は、大学にいる間に司法試験を受け、無事合格。晴れて弁護士となった。それまでに色々と大変なことはあった。だが、それも響子とともに乗り越えてきた。それはこれからも変わらないだろう。
「響子、今日は遅いって話だったよな?」
「うん、今日は結構忙しくて。当麻も今日は帰れないんじゃなかったっけ?」
「ああ、今日はすげえ予定ぎっしり状態だ。今日はおそらく帰らせてくれないだろうな」
「お互い大変だね」
「まあ、そうだな。でも、俺たちなら余裕だろ。だって··············」
「二人が揃えば世界最強だからな」
「二人が揃えば世界最強だからね」
俺と響子はそう言うと朝飯の片付けをする。今日は仕事だ。きついし、やりたくない。そう思うが、世の中そんなことを言っても意味はない。俺一人なら逃げてることだろう。だが、俺には響子がいる。なら、どんなことも乗り越えられる。これまでしてきたように。
「んじゃ、明後日会おうぜ、響子。寂しくて泣いたりするなよ?」
俺は、響子をからかうためにそう言う。しかし、響子は余裕釈然とした態度で、
「大学のときよりかは短いしね、余裕だよ」
そう言った。俺は、
「だ、大学でのことはいいだろ」
俺は大学での話題にうろたえる。俺には触れられたくない、言われたくないことがあるのだ。響子はそんなことお構いなしに口にしてきた。
「············私に手を出したりしないし。明子ちゃんなんか、小田切くんに初めてをもらったって自慢してきたし·········」
「いや、それにも深い訳があるんだよ!言い訳じゃなくてだな··········。その········心の準備がいるというか」
「それは、私がするものでしょ········。当麻くんのヘタレ」
「聞こえてるからな!」
ヘタレじゃねぇし、俺だって色々と準備が必要なんだ。響子とこうして結婚をしているわけだから、そういうこともする可能性はなきにしもあらずなのはわかる。でも、なんかやると決めたときに戸惑いのようなものがある。あれをすると響子を傷つけることになるわけだし。それは、なんか避けたい気もする。そう、これには明確な理由があるのだ。だから、俺はヘタレなんかじゃない!俺は紳士な男なのだ!
「と、とにかく行くぞ。仕事までそんなに時間ねぇしよ」
「そうだね。それじゃあね、切井くん」
響子がかつて呼んでいた呼び方で俺を呼んだ。俺と響子が高校生活を過ごしている中で何度も呼んでくれた呼び方。
日下部響子。この人物に俺は勝てることはない。ただ名前を呼ばれた、というそれだけで俺はもう負けが確定したからだ。
はあ、そういうとこだよ、響子。いや、日下部。
俺は、響子とキスをし、仕事場へと向かう。さて、今日も頑張りますかね。
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