第5話 長野での夏祭りの一幕

 長野に来てから一週間経ってこの仕打ちはありえないだろ。俺はそう思った。


 りずはに強制されて、日下部と長野での夏祭りを回ることになったのだが、普段、こういったところに行ったりしていないことが裏目に出た。日下部にすべて任せきりになってしまい、日下部本人もあまり行ったりしていないようで片っ端から屋台を回ることになりそうだ。


「切井くん、次、焼きそばがあるよ!行こうよ!」


 駄々をこねる子供のように俺の袖を引っ張り早く早くと急かしてくる。俺は引きつった表情を浮かべながらも、しかし、3日目の遊園地でのことがある。俺が何かを言ったところで俺の話など聞く気はないだろう。諦めてついていくほかない。


「分かったから、引っ張るな。焼きそば食べるんだろ?」


「うん!!」


 ほんとに普段の日下部とは違うな。夏祭りってだけで人はここまで変わるものなのか?


 俺と日下部は焼きそばの屋台まで歩いた。焼きそばの屋台は今はタイミングよく空いていた。俺は焼きそばを二つ頼むとりずはから渡されていた金で支払う。

 こういった夏祭りとかの屋台で買うと結構な値段がすることがある。稼ぎどきだと思うし、食べ歩きをすることができる点を考えれば、良いのかもしれないが、夏祭りの屋台に挟まれるようにしてコンビニなんかがあると人はコンビニに密集する。だって、屋台より安く済むし。


「ほらよ、日下部」


「ありがとう、切井くん!」


 日下部は嬉しそうにそう言って、焼きそばを食べ始めた。普段は俺を叱ったりするのにこの様子を見ているとあのときの日下部ともしや人格が変わったのか?なんて思ってしまう。かれこれ日下部と会ってからそれなりに時間は経っている。その中でもこんな日下部の様子はあまり見ていない。俺が男であることも関係しているのだろうけど、それらを度外視して、日下部といるとなんとかなく、“懐かしさ”のようなものを感じる。安心とでも言うのか。


 こうして日下部が楽しそうにしているのを見ていると俺もつい頬が緩んでしまう。

 これまで誰とも関わらないようにして勉強一辺倒だった俺。しかし、それではだめだと日下部と出会ってから気付かされ、俺は変わったのだろうか。


「切井くん、次の屋台に行こうよ!」


 日下部は俺の目を見ながらそう言った。俺は焼きそばの入っていた容器を近くのゴミ箱に捨て、


「そうだな」


 俺は日下部の隣を歩き出した。


(今はこんなことを考える必要はない。あまり行ったりしてこなかった祭りだ。勉強を忘れて今日一日くらいは楽しむのも悪くないかもな········)


 俺はそう思った。





 ◇


 後に、その考えは甘いことに俺は気づく。全ての屋台に回ろうとするから移動が多く、めちゃくちゃ疲れる。


 判断ミスった!

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