第4話 ジェットコースター2
ざわざわ。俺の周囲には遊園地に遊びに来ている客人が多くいた。まぁ、俺もその客人の一人なのだが。
俺は今、ジェットコースターに乗るべく列に並んでいた。俺は全くこれっぽっちも乗りたくないのだが、りずはと日下部による画策によって乗る羽目になってしまった。親父と母さんは特にそれについて何も言わなかった。親父はともかく母さんは何かこれに対して言ってくれるのではないかと俺は期待していたのだが、それは儚く散った。俺は、心のなかで涙しながらジェットコースターに乗る心の準備をするのであった。
◇ 日下部視点
私は切井くんとジェットコースターの列に並んでいる。ジェットコースター。私は結構、いや、かなり好きな方だ。遊園地やディズニーランドなどに行く際は一度ならず二度三度とジェットコースターに足を運び、子供のようにはしゃいだりしている。
ただ盲点だったのが、りずはちゃんがジェットコースターを苦手としていたことだ。りずはちゃんの性格からなんとなく好きなのではないのかと思っていたのだけれどそれは違ったみたい。切井くんのお父さん方も苦手なようで切井くんと二人で来ている。
隣に立つ切井くんを見ていると、
「ふぅ········。心を落ち着かせるんだ。これに勝てなきゃまた俺は負ける。そう、負けるんだ」
切井くんは独り言をなにやら呟いていた。呟いている内容は全く私には理解できなかった。負けるって誰に?そもそも切井くんは誰と戦ってるのかな?
「切井くん、もうそろそろで乗れそうだね」
「ああ、そう、みたいだな」
すごい歯切れが悪い。どことなく緊張している感じだ。私はほくそ笑みながら、
「あれあれ?切井くん、緊張してるの?」
「は、はっ!?き、緊張?はっ、何言ってんだが、日下部は。俺が緊張する?緊張なんて一昔前にゴミ箱に捨ててきたわ」
ゴミ箱に捨てたとか言ってるけど切井くんの顔は微妙にジェットコースターに乗る順番が近づくに連れて引き攣っている。無理しなければいいのに。
「やっぱり苦手なの?」
「心配はいらねぇよ。ジェットコースターは苦手ではない。乗りたいとは思わないだけだ」
順番がやっと回ってきて、切井くんは私より先にジェットコースターに乗り込んだ。私も切井くんに続く形でジェットコースターに乗った。
「これって、やっぱ結構速いやつなのか?」
「さぁ?特に気にしたことがないから分からない」
「そうか。速いやつなら早く終わるのだが、ゆっくり系は焦らされるから嫌気が指すんだよな」
ジェットコースターでのゆっくり系とは一体なに?だんだんと早くなるやつかな?
ジェットコースターは発車した。最初から結構なスピードだ。
「切井くん、どう?結構テンション上がらない?」
「日下部はやけに楽しそうだな」
切井くんは私の顔をじろりと見てそう呟いた。その切井くんの表情はジェットコースターが苦手な人特有の表情でなかった。ジェットコースターに乗る前はかなり緊張していたように見えたけどいざジェットコースターに乗ったら大したことがないなと思った質だろう。
「うん、楽しいよ」
「それは良かった。一昨日、あんなことがあったからな、日下部は楽しめてないんじゃねぇかってそう思ってた」
「えっ?」
切井くんは私を見ずに前を向いたままそう言った。一昨日のこと。それはつまりヤクザ集団に追われたことだろう。確かにあれは予想外のことで私も一昨日の夜はあまり寝付けなかった。
「だが、今の日下部の表情を見て安心したよ。一昨日はハプニングがあったが、今後はそんなことがあるとは俺も思えないしな。今日は今日で楽しむとするのが賢明だな」
切井くんはそう言って私を見て笑みを浮かべた。切井くんはすぐに顔を前に向けてくれたから助かった。私のこんな真っ赤な顔、切井くんには見られたくなかったから。
(ほんとに切井くんはずるい)
ジェットコースターはこうして終わり、りずはちゃんたちと合流をして、他のアトラクションに足を運ぶことになった。その間にりずはちゃんにからかわれたことは言うまでもない。
これもすべて切井くんのせいだ。だって切井くんがあんなことを言ったせいで切井くんの顔を見れなくなったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます