第4話 俺はいつでも不足する
りずはの追求により、俺はかなり焦っていた。それを表すかのように先程から汗がドバドバ出ている。おそらく、顔も真っ青なのではないのか。
日下部とはただ一緒に勉強をしたというそれだけなのだが、りずははそう受け取らなかったようだ。俺としては日下部とは何もないとわかっているが、りずははそうではない。正直鬱陶しいとしか言いようがないが、それを言ったら確実に俺が死ぬ。ではどうするか。と言うかそれしかさっきから考えていないような気も···················。
「それで、どういう流れでお付き合いまでいったの、お兄ちゃん?」
りずははどことなく少しウキウキした様子で俺に詰め寄る。俺は、そんなりずはの様子にさらに冷や汗をかく。お付き合いってそもそも何だよ。
「りずは、俺にはそのお付き合いという概念が理解出来ない。説明してくれ」
俺は時間稼ぎとお付き合いの意味を知るためにこう切り出す。時間稼ぎをすればなんかそれっぽいことをでっち上げ、それを言えばオールOKになると思ったからだ。それにはお付き合いの意味を知らないと何言ってんのか分からない意味不明なことを言う羽目になる。俺は、意味不明なことを言うのが嫌いだ。言うやつも同様。
りずはは、最初は『は?』みたいな顔をしていた。その顔はもうコイツほんとに人間か??と思われているようなそんな顔だ。女の子がこんな顔をすると怖いな。威圧もすごいし。
「お付き合いはそのまんまだよ。男の子と女の子が一緒にお出かけするんだよ!高校生ならクラスにいっぱいいるでしょ!」
いや、知らねえよそんなの!
俺は他人に興味がない。プライベートなことはもちろん、名前もだ。クラスの九割九分覚えてないことがその証明だ。まあ、隣のヤツとか後ろの席のヤツとか。そのあたりは多分覚えてるよ。長塚くん・・・・・・・・だっけ?なんかそんな感じの名前だったはずだ。うん。うん。
しかし、りずはの言うとおりだとして、俺と日下部の関係は・・・・・・・・・・いや、ただの知り合いだな。うん。
「日下部とはただの知り合いだ。お付き合いとか、俺ができるわけ無いだろ?」
取り敢えず、自虐を入れ説得力を加えた。これなら、りずはも納得するはずだ。だが、俺は自虐も好きではない。自分を卑下にしたところでなんにもならないし、自分を悪く言って自分で傷つくとかただの自滅じゃないのか?本末転倒だ。
俺はりずはを見るとむむむと何か考え込んでいる様子。あれ?俺、変なこと言った?
「うーん、ここまで隠されちゃうかぁ・・・・・・・・・・・・」
なんでそうなる!?頭大丈夫か!クソッ!?どうすればいい。この誤解を解かないと今後まずい。
俺は脳を高速回転し、一つの考えを考えついた。
これだ!?今までの伏線からわかること!
「りずは、お前はなぜむしろわからないんだ?頭大丈夫か?」
俺はりずはに言う。
「えっ!?私?」
りずははそんな俺の物言いにビクッと肩を揺らし、あらあらと手を動かし始める。俺は、その様子を見て安堵する。これなら行ける。
「最近、妙に気になるんだが、いいことでもあったのか?テンション高いというか、いつも以上に元気というか、なんというか、そんな感じのシチュエーションがあったんだろ? 聞かせてくれよ、な?」
俺は早口にそう言い切った。りずはは初め、何を言われたのか理解できていない様子であったが、最後の方にはウウと呻き始めた。
俺の考えた方法、その名も“ゴマカシ”。今までの会話をなかったかのようにするこの手法はりずはにはもってこいのやり方である。親には一切通用しない。むしろ、「何誤魔化してんだ貴様」みたいなそんなのが来るから、使いどころに注意が必要だ。まあ、使うやつはりずは以外いないんだが。ともかく、これで有耶無耶にするしかない!
「わ、私はその・・・・・・・・・と、特にないかなぁなんて」
りずはは手をモジモジと動かし、尻あたりも動いているように感じる。一体、何があったんだか。しかし、わかり易すぎだろ。だが、こんなときに単刀直入に言ってしまうのはマズイ。傍から見たら虐めてるように見られるからだ。こういうときは遠回しに言うべし。
「いや、その言い方はなんかありますよって言ってるようなもんだぞ」
いるよなこういう奴。「特にないかなぁなんて」、これ一番だめなやつな。鈍感ヤローであっても、これは気付くはなあ。むしろ、気付かないやつに会ってみたいレベルだ。りずはは、嘘をつくのは大の苦手であるからなおさらだな。誤魔化すのが下手だ。下手すぎるレベル。今後、変なヤツとか詐欺とかに引っかからないか不安になってきたわ。りずは、強く生きろよ。いや、これは何か変だな。取り消しで。しかし、今のこの勢いなら、いけそうな気もするが、カウンターをかけられたら、それまでだ。いかにりずはに思い出させずに、俺の疑問を解消をするか、これが今回の戦いの勝敗を決する。誰と戦ってるのかさっぱりわからんけど。
「・・・・・・・・・・・・お母さんには言わないでよ。お兄ちゃんにしか言わないから」
りずはは、覚悟を決めたのか俺に言ってきた。
「分かってるって。言ってみ」
俺は少し優しめにりずはに返す。こういう状況で冗談はいらない。真面目な話であることは雰囲気から分かるしな。
「実はその・・・・・・・・・・クラスメートの男子から、そのね、ら、ラブ、ラブレターをもらったの」
りずはは顔を真っ赤にして俺にそう告げた。うわっかわいい!妹ながらにすごいなこれは。というのは置いといてだ。ラブレターか。もらう理由は今のでよくわかるかもな。うんうん。
「へぇー。そうか。それは良かったな」
俺は無難にそう返す。これなら不自然でもないだろ。りずはは俺の姿勢に冷たい目を向けてきた。
「興味なし?お兄ちゃん、冷めてるよね。超現実主義だし」
「いや、そうでもねぇだろ、言うて」
俺はハハッ何言ってるんだ、りずはよ!みたいなノリで返したが、視線がより冷たくなったのは気のせい?気のせいだよね?
「いや、そうだって、お兄ちゃんの友達なんて今日初めて見たもん」
「いやいや、家に連れてこないってだけで実際にはいるかもしれないだろう? 」
「いやいや、絶対にないから。お兄ちゃん、嘘は良くないよ」
・・・・・・・・・・ちょっとりずはさん、その言い方はないんじゃないの?まあ、実際いないからなんとも言えないけど。それでもさあ、言い方変えられないのか?変えようと努力したけど、口から出ちゃったっていうのは努力してないからな。口から出ちゃってる時点でアウトだからな。流石にそれはりずはも知ってる思う。というか、知ってないとりずはの言う友達とやらはできないだろ?思ったことスパって言ったら、流石に距離置かれるは。むしろそれで離れないやつは、コッチから距離置くは。
「俺の友達ある無しはどうでも良くてなあ、そのラブレターとやらはどうするんだ?俺が破ればいいのか?」
俺はそのラブレターとやらを見た瞬間、なぜか殺意が湧いた。家に来たら取り敢えず、消すか。
「なんで破るの!? お兄ちゃん、流石にそれはないわ。りずは、ひくー」
「いやいや、冗談だから。ジョークだから!てっ、まじで引くな。俺が悲しくなるだろ!」
りずはは今俺のいる机から逃げるように離れていく。やめろ!それは流石にやめてくださいお願いしますから!!!!!!!!!!
「お兄ちゃんに彼女できない理由が明確になったね。りずははショキングだよ」
なんだ、この流れ。日下部の彼女疑惑は消えたが、なんか俺が責められてるんだけど。俺がすごい傷ついたんだけど。なんでや?冗談すら通じないのか、りずはは。なにを勉強しに行ってるんだ?遊びにでも行ってるのか?それだったら、学校なんか行かず、仕事したほうがいいんじゃね。俺はそう思うが、学校では家ではできない経験をすることができる。勉強しに行くのが普通だと思っている俺からしたら、無駄なことしてるなとしか思えないが、それでもやはり大事なのだろう。
「わかったよ。俺は勉強あるから、そろそろ行くぞ」
夕食を片し終えると、階段へと向かう。そんな俺の後ろ姿を見て、
「了解です!」
俺は後ろへ振り返り、りずはの反応を見て、頷くと部屋に戻っていった。口元を緩ませながら。俺はまだ経験不足で勉強不足。何もかもが足りていない。不足している。今回の事態もその不足しているものが原因で起こったものであるのだろう。日下部に迷惑かけそうになっちまったしな。危ない危ない。ともかく俺はやることが多くあるのだ。
ほんと俺はまだまだ勉強不足のようだ。
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