第2話 俺はいつでも敗北する

 テストが返却されたその日の勉強が一番大事だという言葉がある。かの有名な人物も言っていたことだ。実際そうだと思う。テストは学校の教師が出題しているわけだから、模試対策にもなるだろうし、来る共通テスト対策にも繋がる。それに大学進学を視野に入れている人ならなおさらだ。

 

 俺も当たり前だが、テストの復習はする。むしろ、しないやつはアホだ。間違えたところは元より、正解したところもやり直すことで次にその問題にかち合ったとき、間違えることがなくなる。学校から提供されているワークなどを使うことでより効果が増していく。

 

 俺は今まさにそのテストの復習をしているところだ。今回は中間試験ということで5科目9教科だった。科目数は別に関係はない。まぁ、人によりけりではあると思うが。科目数が多いと勉強が追いつかないと言うやつは普段の授業を理解していないことになるしな。言い訳にすらならない。

 

 テストの復習を終えると、俺はまたいつもどおりの勉強を始める。これが今の俺の生活スタイルであり、変わることなく“7年間”続けていることだ。


 ………………………………………………………………………………

 


 俺が3時間ほど勉強をしていた頃、ピンポーンと音がした。宅急便か?それとも新聞勧誘か?どちらにせよ、興味はない。どうせ、りずはが出てくれるだろうしな。現に玄関からガチャガチャと音が聞こえた。りずはが出てくれたのだろう。

 

 また、勉強を始めようとしたとき、

 

「お兄ちゃん、お友達が来てるよ!」


 りずはが急に俺の部屋に向けてデカイ声でそう言ってきた。

 

 は、はあ!?俺に友達? いやいねぇけど!

 

 俺は不審に思いながらも、玄関を開けた。友達なんていない俺からしたら一種の恐怖だ。知り合いすらいるのか怪しい俺からすると、俺の住んでいる家を知られているというのは色々とまずい。なんかクラスの裏のライングループでリークでもされているのだろうか。いや、ないか。ラインをクラスのやつらと交換したことないし、なんならスマホを持っているのかすらクラスメイトたちは知らないのではないのか?だとしたらなぜバレた?後ろをつけられていたのか?

 

「切井くん、遊びに来たぞ!」

 

 お前誰だよ!

 

「いや、お前誰だよ! 」


 俺は突然のことで思ったことをスパッと口に出してしまった。俺の悪いクセ。


 俺は玄関で立っている女子生徒を見た。いや、コイツには見覚えがある。たしか、すげえ馴れ馴れしく話しかけてきたやつだ。気持ち悪くて引いたやつだ。記憶から抹消したかったのだが、それ以降も声かけてきたから消すことができなかったのか。一生の不覚。マジで恥ずい。


 女子生徒は俺の誰だよ発言にひどく傷ついたようだ。顔を真っ青にして体が少しフルフルと震えている。失言しちゃったかぁ。


「えっ!?わ、私は学年2位の日下部だよ。昨日だって話しかけたではないか!なんで忘れてしまうんだ!?」


 気を取り直したのか、俺に怒ってきた。まあ、名前忘れたとか間違えたとか怒りたくなるよね。わかる。でも、そもそもお前の存在、昨日初めて知ったんだよね···············。


「いや、俺100点しかとったことなかったから、2位以下は気にした事なかったわ」


 取り敢えず、昨日初めて知ったということを隠すため、こんなふうに返答する。これなら、バレないよね?


 俺は少し考えて今の発言はマズイことを悟った。ヤベェ。これ、ただの自慢だ。こんなん聞かされたら、殺意湧くは。俺なら言ったやつを殺すかも。でもホントのこと言ってはいるわけだが、ときにホントのことは人を傷つけるものだし。なら結局、どうすりゃいいんだよ。

 

 実際、俺の物言いにひどく傷ついたようだった。言い過ぎたか?だが、実際そうだし、なんとも言えねぇな。まぁ、とりあえず謝っとくか。

 

「悪い、言い過ぎた」


「そんなことはない。むしろ、それでこそライバルだと言いたい気分だ!」

 

 やっぱコイツただのアホだ。と言うか、ちょっと気持ち悪い。今の聞いて鳥肌立ったんだけど。

 

 悪く言われて喜ぶとか正直キモい。口で言うとりずはに小言をもらうような気がするから言わないが。でも、キモい。早く帰ってほしい。身の危険を感じる。

 

「お前、大丈夫か?頭とか?」


 翻訳するとこうだ。


「 お前、大丈夫か?“頭”とか?」

(お前、頭湧いてね?)

 

 ひとまず、心配している様子を出すことにした。頭を強調している辺りはご愛嬌ということで。これやっとけば、たぶん大丈夫だ。人を気遣うなんて素敵!みたいなことは狙っていない。むしろ、こうやることで早く帰ってほしいアピールをしやすくするつもりだ。つうか、早く帰れ。

 

 俺の言葉が変だったのか、顔を赤らめた。

 

 えっ!?俺そんな変なこと言ったか?振り返ってもそんなふうには思えない言葉であったと思うが、やはり価値観が違うというか、うまく伝わらなかったのだろうか。コイツやっぱ変なやつだし、普通の言葉じゃだめなのかもしれない。

 

 また謝るか? いや、だが俺が悪者にでもなったかのような気もするような………………。と言うか、早く帰れよ。


 俺は諦めかけているときに女子生徒は、

 

「だ、大丈夫だ。私は元気だ」


 んなことは良いんだよ、バカヤロー!!


 俺は脳内で遂に我慢ならずキレた。コイツほんとウザい。早く帰れよマジで!


 俺は玄関の近くにある時計を見た。時刻は5時頃。ウソ、だろ··············。こんなやつとかれこれ20分も話してたのかよ···············。

 

 俺の頭の中で散歩が流れ出した。いきなりすぎるな。散歩といえば、幼稚園か?いや、どうでもいいや。


 現実逃避しかけているのをなんとか抑える。そして、早く話を切ろうと単刀直入に聞く。

 

「要件はなんだ? 日下部」


「ああ、要件なんだけどさ、一緒に勉強しないか?」

 

「ハァ!?」

 

 うっかり出てしまった。日下部もオレの反応を見て、戸惑っている。俺と勉強?なんで?Why?

 

「Why do you want to study with me?」

 

 やべぇ。焦って英語で話してしまった。まずい。日下部と話していて戸惑うなんて屈辱以外のなにものでもない。 どうにかごまかさねぇと。

 

「く……


「Because I want to study with you .Also,I think that I enjoy studying with you .」

 

 日下部が英語で返してきた。流暢なそれでいてきれいな声で。

 

 俺はあっけにとらわれていると、

 

「切井くんにもあわてることはあるんだね? 英語でなんて、ふふふ、それでどうかな?」

 

 日下部は上目遣いで俺を見てきた。クッ。俺は慌てて顔をそらし、日下部から視線を外す。何俺は。クソッ。初対面のはずのやつにこんなんじゃ前途多難だぞ。もっと、自分を律しなければ。そんな俺の反応が面白かったのか、日下部は笑っていた。

 

「はあ、もう好きにしろ」

 

 俺は悩むのも馬鹿らしくなり、そう言うと部屋に戻ろうとした。日下部のことだ、すぐ帰るだろう。日下部のことをまるで知らないけど。そう思っていたが、俺の考えは甘かった。

 

「お邪魔します!」

 

 日下部はそう言って家に上がってきた。


 えっ!? 上がるの! 面倒なことになってきた。いや、俺の部屋に上げなければいいだけか?そうだな。と言うか、俺の部屋に上げるという選択肢はもともとないな。うん。

 

 俺は無視して部屋に戻ろうとすると、りずはにあった。

 

「お友達が来たんでしょ?部屋に上げてあげなよ」


 りずはさんや、何言ってるんですか。日下部は初対面のやつだし、それも女子って絶対ダメなやつだろ。普通に考えて。普通の高校生は今、一人机に向かって黙々と勉強してるんですよ?分かってます?だが、こんなこと言っても分かってはくれまい。言葉を少なくして分かりやすく。


「いや、なんで?」


 ハイ分かりやすい!流石、俺!こういうときにむだに要領なく、長々と話すとかえって相手に伝わないのだ。だから、端的に、簡潔に伝える必要性がある。俺のこの言葉はまさにそれに合致する。

 

 それに別に友達ではないだろ?あの女の名前だって今日、知ったぞ。


 しかし、

 

「日下部さん、お兄ちゃんの部屋は、上だよ」


 な、


「ちょ、りずは。何勝手に言ってんだよ!コイツは別に友達ではない。ただの·················ただの····························そうただの知り合いだ! 」


 俺は慌ててりずはに詰め寄る。何勝手なことしてんだ!こんなヤツを部屋に入れるとか人間性疑うぞマジで。普通の高校生は今、一人で机に向かって勉強してるってこと理解できないのか!


「えーウソだぁ! 日下部さん、そうなの?」


 なぜそこで疑うんですか、りずはさんや。と言うか、俺はりずはに信用されていないのか。なんか、ショック。いや、気に入らん。なんでりずはにとっても俺にとっても初対面のこんなヤツをりずはは信用しているんだ!ともかく早くこいつを帰らせるべきだ!


「切井くんとはお友達ですよ。そうですよね、切井くん?」


 もう詰んだ。俺の愛の巣(普段家にいる間の8割以上を過ごしているため、かなりの愛着がある。毎日の掃除はもちろんのこと。机の周りとかは埃が一つもないのが俺の誇りだ)が遂に消えた························。


 俺は、カクっと首を傾け、ノロノロと階段を上る。

 

「はあ、もう好きにしろ」

 

 もうめんどくさくなってきた。コイツと関わった俺がバカだった。もう、知らん!


 ……………………………………………………………………………


 

 これが原因で日下部には口喧嘩に勝てなくなることになるのだが、それはまた別の話だ。


 だが、俺はこのとき疑問を持つべきだったのかもしれない。。どこがであったようなというふわっとしているこのに。


 俺はこれが原因で鈍感クソヤローとなる。その始まりとなった。

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