7.ミノタウロスの料理
吾輩は魔王である。最近、魔王の仕事とは何かと考え中である。
「あっ、魔王様こんなところへ何かご用でしょうか?」
「む? ミノタウロスか」
そういえばこ奴も魔王城にいたのであったな。
さて、どうするか。
側近の言った通りに勇者の元へ向かわせるべきか。
ただ、同胞が人間どもに食われたというではないか。それなのに勇者の元へと行かせるのは少々かわいそうである。
ただやられるだけならまだいい。しかし食べられるのはちょっとなぁ。人間は魔物を家畜か何かと勘違いしているのではなかろうか。
「ど、どうされたのですか? こちらをじっと見つめたりなんかされて」
ミノタウロスはくねくねと体をくねらせる。見た目に反して柔らかい体をしているらしい。
それはつまり、柔らかく締まった肉を持っているということだ……。
「はっ! 吾輩は何を?」
何やらよからぬ考えをしてしまったような……。いやそんなことはないはずだ。吾輩は魔王。間違った考えなど持たぬ。
「それにしてもミノタウロスよ」
「はい、何でしょうか?」
「その恰好はなんだ?」
ミノタウロスが「これですか?」と口にしながら身に着けているそれをつまんで見せた。
「エプロンです」
「エプロンとな」
ミノタウロスの前かけであったか。
「これから食事でもするのか?」
「何をおっしゃるのですか。エプロンなんですからこれから料理するのですよ」
「なんと!」
まさかミノタウロスが料理をするとは……。というか料理ができる魔物がいたことに驚きである。
いや待てよ。吾輩は食事をする時にちゃんとした料理を食べているではないか。これでもナイフとフォークの扱いは完璧なのである。魔王だからな。
そういえば、その料理を作っているのが誰なのか、吾輩は知らない。
「まさか貴様……吾輩の料理も作っていたのか?」
「ええ。ですがそれは最近のことですね。魔王様にこの魔王城に滞在するように命じられてからですから」
「……ちなみになのだが、貴様の前は誰が作っていたのだ?」
「魔王様の側近であるラスティア様です」
あのサキュバスか。
正直に言うと最近の食事の方が美味であった。つまりこのミノタウロスの料理ということなのだろう。
「……」
なぜだろうか? この事実を口にしてはならない気がする。とくにあの側近の耳には入れてはならない。そんな魔王的な直感があった。
「う、うむ。これからもしっかり吾輩に料理を振る舞うのだぞ」
「はい! 喜んで!」
このミノタウロス、戦う時よりもやる気に満ち溢れているように見えるのだが。
この調子ではやはり勇者の元へ行けとは言えぬな。まあそれで美味な食事ができるのだからよしとしておこう。
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