第14話 新月

 先週末ダンジョン内にマイホームを手に入れたので、今週は毎日夕食後にマイホームに転移して、30分ほどアンデッド狩りをしている。


 昼の幽霊屋敷は半透明の霊レイスや動く骨スケルトンといった弱いアンデッドばかりだが、夜はそれらに加え、動く鎧リビングアーマーや首なし騎士デュラハンが出る。数が多くて強い。昼より効率的だ。


 屋敷の外には馬や犬のスケルトンも出る。

 市販の馬具が骨の体に合うなら、乗馬の練習がしたいところだが。

 犬スケルトンは私がフライドチキンの骨を投げると走って取りに行き、その骨を噛み砕いていた。骨をかじる骨、シュール。モフモフじゃないけど動きは犬なので見慣れたら可愛いかもしれない。


 ダンジョンボスが出るのも夜に限られる。ボスに挑むのはもっと強くなってからの予定だが、冒険者ギルドの情報によるとここのボスはリッチで、人語を喋るそうだ。

 肖像画の男性について尋ねたら教えてくれないだろうか? クロッカス以外からの情報源が他に思い浮かばない。


 黒猫クロッカスは人語を喋らず文字を書くこともないが、意思疎通はある程度できるらしい。

 だけど唐突に猫に「あなたはシブースト家の人間ですか」って問うのはどうなん。正解だったら「何で知ってんだ」って感じだし、不正解でも不審だ。


 ゲームのヒロインは何をきっかけにクロッカスと仲良くなるんだろう? 仲良くなった後に正体を知るのか、正体を知ってから仲良くなるのか。

 愛の力で呪いを解くお話では『相手の正体を知らずにキスしたら真実の姿に戻った』ってのが定番だけど、サクラには聖魔法の力で解く方法もあるわけだし。



 思うに、私はクロッカスルートに入ってるのではないだろうか?


 乙女ゲームのクロッカスルートのヒロインも、彼の呪いを解くためにカヌレ町の幽霊屋敷で聖魔法のレベル上げをしてる気がする。


 どのルートにも乗らないように自分の意思で行動していたつもりが、誰かの書いたシナリオに沿って動いていたにすぎないというのは、自分が自分でないような、体と心が乖離しているような感覚になって、何を信じていいかわからなくなる。


 この世界は、私は、一体何なんだ。


 なんだかネガティブな思考に陥ってベッドに入っても眠れないので、散歩に出ることにした。どうせ明日は休みだ。

 パジャマの上にガウンを着て、学院のバラ園に転移する。


(…いい香り)

 昼は人が多いバラ園も、寮の門限を過ぎた今は私の独り占めだ。


 今夜は新月。


 真っ暗なバラ園に聖魔法の明かりを灯す。満開のバラが美しい。

 カヌレの家の庭にも、何か育てやすい花を植えようかな。


 

「こんばんは」

「!」

 挨拶に驚いて振り返ると、背の高い男性がこちらに歩いてきていた。


(…人間クロッカス!!)


 なんでパジャマで来た、私…!

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