第13話 肖像画

 カヌレの幽霊屋敷はダンジョンと認定されているので、中の物品を持ち帰っても盗みにはならない。

 屋敷内を物色したが、ダンジョン化する前に目ぼしい物は持ち出されていたのか、冒険者に漁られた後なのか、厨房の鍋さえ残っていなかった。

 一方、家具や鏡などのインテリアは、壁と同じようにダンジョンの一部という扱いらしく持ち出せないようだった。


 毎週末の幽霊屋敷通いでは魔力温存のため聖魔法による照明を暗くしていたので、壁に飾られた絵画はただの背景でしかなかったのだが、今回よく見てみれば、肖像画が残っていた。


(……クロッカスに見えるんだけど)

 大きな肖像画の中の、黒髪に金色の瞳の美青年。



 ◇◇◇


(やっぱりそっくり)

 校庭を女子生徒の集団に囲まれて二足歩行しているクロッカスを見つけ、乙ゲーシステム画面越しに彼の顔を確認する。


(さすが攻略対象者、整った顔)

 キャラとしては、クロッカスは年上枠だろうか。かなりお爺ちゃんだが見た目は20代半ば位だ。

 美形だけどムスカリのように中性的ではなく、精悍だけどグラジオラスみたいにゴツくない。

 サラサラの黒髪は肩より少し下。肖像画の男性は髪をオールバックにし幅広のリボンで後ろで一つに結んでいた。

 瞳の色はこの距離ではわからない。

 背は高い。黒猫での身長は耳まで入れて2m位。人間でもグラジオラスと同じ位だと思う。


 テーマパークで女の子が着ぐるみを囲んでいるような光景も、乙ゲーシステム画面越しだとイケメンが女性を侍らしているようにしか見えない。


(年上枠っていうより、お色気枠?)

 なんというか、色っぽい人だ。長髪に加え、裸なのもお色気担当感を増している。

 いや、ちゃんと画面の位置を調整して下半身は黒猫のままよ。昼に人間姿を見るのはこれで二回目だけど、前回はつい太陽光の下ではっきり顔以外の部分も見てしまったので。(私は悪くない。裸で歩いてるのが悪い)



 学院の図書館で調べたところ、カヌレ町の屋敷を所有していたシブースト伯爵家は、四代前の王の時代に断絶。蔵書に古い貴族名鑑は無くて、クロッカスの名前を確認することはできなかった。


 サバラン公爵家は何らかの縁があってクロッカスの世話をしているのだろうが、その辺の事情は副部長さんもダリアも知らなかった。

 部長のデルフィニウム・サバランなら知っているかもしれないが、彼は部室に来ないし、学年は同じでもクラスが違うので接点がない。

 姉のローズ様とはさらに接点がないし、仮にあってもヒヤシンス殿下の婚約者である彼女には関わりたくない。

 

 クロッカスがシブースト伯爵家の人間だったとして、お家の断絶と呪いは関係あるのだろうか。

 呪いの原因を知らなくても聖魔法のレベルが上がれば解呪はできると思うが、気になる。


 だって正直、クロッカスの見た目はかなり好みだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る