第9話 ファンクラブ

 すぐに東屋から寮の自室に転移した。

 だって、画面に写ってたのが全裸の人間の男性だったから。


(そりゃ元が猫だから服は着てないだろうけどさ)


 記憶はないが、サクラの中の人は男性の裸に「キャッ」と恥ずかしがるようなウブさは持ち合わせてなかったようだ。さすがに動揺はしたけども。


 ちょっと落ち着きたい。

 眼鏡を外してソファに座り、アイテムボックスからカヌレ町で買いだめしたチーズケーキを取り出す。

 はまって毎晩食べている。こんな時間に食べちゃダメとわかっている。わかっているけど、寝る前のこの至福の時間がやめられない。『食べても太らない』というヒロイン補正がある可能性に賭けている。

 

(クロッカスの人間バージョンはデブじゃなかったな)

 そんなにガッツリは見てないけど。


(スチルとか残ってないかな? いや裸のスチルが欲しいんじゃないから。姿を確認したいだけだから。乙女ゲームで下半身丸出しスチルとか有り得ないから)


 自分で自分に言い訳しながら乙ゲーシステムを開くと、ギャラリーにクロッカスのフォルダができていた。

 …今気付いたけど、ヒヤシンス殿下とムスカリのフォルダもあるじゃん。無視無視。


 クロッカスのフォルダには先程のスチルが入っていた。

 夜の東屋で眠る、黒髪のイケメン。裸の細マッチョ(上半身)。


(…クロッカスルートはあれかな? 美女と野獣的な? 呪いで黒猫に姿を変えられたクロッカスをヒロインが愛の力で救ってハッピーエンド☆ みたいな?)


 もしそうなら、攻略対象者中最もヒロインに運命を左右されるキャラじゃないか?



 ◇◇◇


 翌日の放課後、ダリアに場所を教えてもらってクロッカスファンクラブの部室にやって来た。


 朝食前に東屋に行ってみたが、クロッカスはいなかった。昨晩テーブルの上に置いたままにしていた猫用ジャーキーは無くなっていた。


 この時期はまだ新入生の部活見学は珍しくない。入部する気はないが、クロッカスの情報を収集したい。


 部室のドアをノックすると、中から「どうぞ~」と女性の声がした。


「失礼します」

 ドアを開けた先は、猫カフェだった。


「入部したいんですけど!」



 部長さんは不在だったが入部届は受理してもらえた。

 現在部室にいるのは、猫四匹(茶トラ、ロシアンブルー、三毛、ペルシャ)、私以外に人間四名(男女二名ずつ)。部員は私を含め全部で九名らしい。

 部費はお高めだった。うぅ、週末は幽霊屋敷で稼がなくては。


「部室をきれいにしてもらえて助かるわ~」

 聖魔法の洗浄が使える私は副部長さんに大歓迎された。


 今、私の膝の上では茶トラが寝ている。

 副部長さんはペルシャのブラッシングを、他の部員は猫じゃらしで遊んだりスケッチをしたりしている。


 この部活、いい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る