第10話 部長と副部長とアン

 入学して一月経った。

 クロッカスファンクラブという名称ではあるものの、部活でクロッカスと交流することはない。部室の猫達でモフモフ欲が満たされた私は、クロッカスのことはすっかり放置している。


 元が人間の男の人だと思うと、会えたとしても撫でたり肉球に触ったりはできない。

 それに、あれこれ探るのはストーカーっぽいので駄目だ。自分はヒヤシンス殿下から逃げてるのに、ヒロインはストーカーしても許されるってことはないだろう。


 黒猫の姿が呪いによるものだとして、それを解くのが愛の力なら、別に相手は私じゃなくてもいいはずだ。誰か知らないが、クロッカスルートの悪役令嬢や他の女子に頑張ってほしい。


 でも聖魔法の力なら、私だけがヒロインパワーで解呪できる可能性もある。今はまだレベルが足りないので、週末はカヌレ町の幽霊屋敷に通って、頑張ってレベル上げをしている。

 


 入部した後で知ったのだが、クロッカスファンクラブの部長は、ローズ様の弟、デルフィニウム・サバランだった。攻略対象者その4である。


 用心するつもりがデルフィニウムルートに入ってしまったのかと焦ったが、彼は完全に幽霊部員だった。部長なのに。


 副部長さんによると、クロッカスは高位貴族用男子寮でサバラン公爵家の使用人に世話をされており、サバラン公爵家の子息が在学している間はその子息が部長になるらしい。


 副部長さんは亜麻色の髪と目をした可愛らしい先輩で、名前はフリージアという。花の名前なので、ひょっとしたらクロッカスルートかデルフィニウムルートの悪役令嬢かもしれない。


 クロッカスファンクラブの猫で私に一番なついてくれているのは、茶トラの女の子、アンだ。

 部活中トイレから部室に戻ると、アンはドアの所で私を待っていて、私を見ると後ろ足で立ち、構ってくれと両前足を上げる。めちゃくちゃ可愛い。

 頭を撫でるとアンは横向きに寝そべる。肩からお尻までその柔らかい体をゆっくり何度か撫で、次に下顎を撫でると、アンはバンザイをしてヘソ天ポーズになるので、前足の可愛い肉球をプニプニさせてもらった後、喉からお腹を撫でる。

 私が切り上げて部室奥のソファへ移動しようとすると、もっと構えと足元でゴロンゴロン転がって、私が歩く邪魔をするのも可愛い。



 ◇◇◇


 ヒヤシンス殿下はピンク髪の女子生徒捜しをやっと諦めたようだ。

 私はデルフィニウムと顔を合わせることもなく、平日の放課後は部活で猫達と戯れ、週末は幽霊屋敷で経験値とお金を稼ぐという、充実した日々を送っている。

 

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