第5話 図書館

 私が使える魔法は聖魔法のみで、剣や弓が使えるわけでもない。

 冒険者として活動するなら回復担当としてパーティに加入するのが普通だろう。だが、夏季休暇までは活動できるのが平日の放課後と週末だけなのでパーティ加入は難しい。かといってその都度臨時で組んでくれる冒険者を探すのは面倒だし、トラブルも怖い。

 となるとソロだが、一人では行ける場所が限られる。


 入学前、ソメイヨシノ男爵領から王都へ向かう途中でカヌレという町に立ち寄った。

 その町には、ダンジョン化した幽霊屋敷がある。

 聖魔法でも攻撃できる魔物がいる。アンデッド系だ。


(次の休みに冒険者ギルドカヌレ支部で冒険者登録をして、幽霊屋敷に行ってみよう。稼ぐのに手頃な感じだったら転移で通えばいいし)



 ◇◇◇


 学院の図書館はとても美しい。前世、世界遺産に登録されている図書館があったが正にそんな感じだ。

 残念ながら蔵書の多くは学術書で娯楽向きではないが。ラノベとか置いてくれ。


 図書館でカヌレ町の情報を集め終わり、寮に帰ろうと1階ホールを歩いていると、扉が開いて二人組が図書館に入ってきた。一人は全身真っ黒だ。


「な! ななな」

 なんでデブ猫が図書館に入ってくるんだ。


「あんた、『な』しか発音できないの?」

 デブ猫の隣の男子生徒が、すれ違いざまにイラっとすることを言ってきた。


(げ! 攻略対象者その3!)

 魔術師団長子息、ムスカリ。銀髪に灰色の目の中性的美形だ。


「失礼しました」

(攻略対象者はスルー、スルー)

 印象に残るような言動でフラグを立ててはいけない。


 ムスカリとデブ猫は奥へ歩いていった。


 それより、ムスカリも司書もデブ猫にノーリアクションだった。


(デブ猫が見えてないわけじゃないよね?)

 カウンターにいる司書の女性に話しかけてみる。


「あの、今、大きな黒猫が入ってきたみたいなんですが」

「はい、それが何か?」

「え? いいんですか?」

「はい。どうかしましたか?」


 どうかしてるだろう。だって、人間サイズの黒猫が二足歩行で図書館に入ってきたんだよ。


 デブ猫の存在を受け入れているらしい司書にそれ以上何か言うこともできず、図書館を出た。


(学院の看板猫かなんかなの? あ、そうだ従魔! ムスカリの従魔なのかも!)

 魔物の中には契約によって人間に従うものがおり、従魔と呼ばれている。

 

(ダリアならデブ猫のこと知ってるかな)

 夕食の時にでもサポートキャラに訊いてみよう。

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