第3話 寮

 東屋の3m程手前から、ガーデンソファの上で寝ているデブ猫を観察する。お腹丸出しだ。


 乙ゲーシステム画面越しにデブ猫を鑑定してみたが、エラー表示が出た。

 レベルが足りていないのが原因かもしれないが、普通の猫ならレベルが低くても鑑定できると思う。

 というかサイズからして普通ではない。この世界には魔物がいる。あれは魔物に違いない。


(少なくとも、クロじゃない)

 クロがいないならこんな所に用はない。寮に帰ろうと踵を返す。


 ポン

「ひっ!」

 背後から肩を叩かれた。見ると、肩の上に黒猫の手が。


 ◇◇◇


(…まだ心臓がバクバクしてる)

 デブ猫に叩かれたとわかってすぐ、寮の自室へ転移した。寝てると思って油断していた。


(この匂いがデブ猫を引き寄せたのかも)

 私は猫用ジャーキーを持参していた。クロと再会した時のために奮発して買った高級品だ。

 アイテムボックスに乙女ゲームで稼いだお金が入っていたから買えた。男爵家からのお小遣いだけではそんな余裕はない。


 乙女ゲームではミニゲームで賞金を稼ぎ、イベントに必要なドレスや攻略対象者へのプレゼントを買うようになっていた。

 私はイベントをほとんどこなしておらず、ゲーム内で買ったのはクロの餌くらいなので、貯金はたんまり残っている。


(はぁ。あいつが東屋を縄張りにしてるせいで、クロは別の場所に移ったのかも)

 ため息をつき、ジャーキーはアイテムボックスに入れた。


 クロや攻略対象者の位置情報が乙ゲーシステムのマップに表示される仕様になっててほしかった。



 制服から部屋着のワンピースに着替え、寮の食堂へ向かう。

 制服は白いレースの襟が付いた紺色のクラシックなワンピースだ。結構気に入っている。

 

 学院は全寮制で、男女別に高位貴族用と一般用で棟が分かれている。ヨーロッパの貴族の邸宅のような外観だ。

 高位貴族用特別室は、寝室、居間、衣装部屋、使用人部屋、キッチン、バス、トイレ付きらしい。

 私はもちろん一般用で、バス、トイレ付き1Kだ。部屋は12畳、キッチンは6畳程。電力の代わりに魔力を使う冷蔵庫やエアコン等も設置されている。

 一般用にもキッチンが付いているのは、手作りのお菓子やお弁当を攻略対象者に差し入れするためだろう。

 洗濯、掃除は寮の使用人に頼むこともできるが、私は聖魔法の洗浄が使えるので利用していない。


 一般用の寮の食堂は和洋中のバイキングだ。和食もある設定で助かった。


 クロに会えていないこと以外は、ここでの生活に満足している。

 

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