その花の名前は知らない
これを絶望と呼ぶのなら
知らないほうがよかった
悲しみという言葉では
言葉にできない悲しみ
どうしようもない
心を抱え
ただ立ちつくす
それだけ
ただそれだけの僕
そのとき
生まれて初めて
「お前の声を聞いた」
ほったらかしの寄せ植え
忘れられたように
残っていたお前の
失った命
音もなく消えていく
涙にもならない
寄せ植えに一輪残った花が
陽を浴びて
風にそよいで
ただ、ただ咲いていて
どうしようもなくて
僕はもうどうしようもなくて
「お前が笑ったわけを聞いた」
梅雨になって
雨が降る
乾いた土に
命の水が宿る
嬉しいはずなのに
きっとお前は嬉しいはずなのに
どうしてお前は
そんな顔で俯いて
張り裂けそうで
僕はただ張り裂けそうで
「お前が泣いてるわけを聞いた」
ずぶ濡れになりながら
ただ立ちつくして
それから
何度も一緒に
風の声を聞いた
夕陽の沈む音を聞いた
蒼く光る
月の調べを聞いた
でも
今はもう
もう何も聞こえない
何も聞こえてこない
その花はもう
枯れてしまったから
名前も知らない
その花は
もう
雪の溶ける吐息でさえ
聞こえてはこない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます