第19話 自由を手に入れた君
「そうですか・・・」
そこに同情や哀れみが少しも入っていないことに僕自身気づいていた
僕の疑問に対しての回答としてはかなりズレている感じもするが
回答が聞けた事に対して、合の手的に返事をしただけのことだ
そう返事を返した後、何も言葉を発しない僕に女性が口を開く
「色々、整理していたんです・・・・娘の遺品を」
「そうしたらこれが・・・・」
そう言いながら鞄の中から1冊のノートを取り出す
それをテーブルに置きながら女性が言葉を続ける
「あの子にはとても苦労を掛けたと思っています」
「あの子の優しさに私自身甘えていたのかもしれません・・・」
「大丈夫だから、お母さんは仕事、頑張ってね!そう言って笑うあの子に・・・」
「元々、感受性の強い子供だったと思います」
「私自身、出来るだけあの子の前では笑顔でいるようにしていたつもりです」
「でも、あの子はそれを私が無理してそうしている事だと気づいていました」
「そのせいでしょうか・・・あの子の体にいろんな不都合が出てきたんです」
「頭痛や、吐き気、何もできない倦怠感・・・」
「色んな病院を一緒に訪ねて、色んな検査をしましたが」
「どれも異常がなく、最後にたどり着いたのが精神科でした」
「でも、どの病院もあの子に合わなかったみたいです」
「どこも患者さんがいっぱいで、先生自体もとても疲弊していたようです」
「あの子はそこも敏感に感じ取ってしまい」
「申し訳ない気持ちでいっぱいだったようです・・・」
「そんな状況の中、ここにたどり着いたんです」
「どうぞ・・・ノート、ご覧になってください」
一通り自分が思っていることを話し終えた女性が僕にそう促す
「失礼します」
そう言ってノートを手に取る
大量生産されているであろうごくごく普通のノート
表紙には何も書かれていない
それを開いた1ページ目真ん中に
つかれた あたまいたい
そう書かれていた
その2つがノートの右下に向かって斜めに流れている
つかれた あたまいたい つかれた あたまいたい つかれた あたまいたい
2ページ目、左側には何も書いていない
右側に自分の体の異常について書かれていた
3ページ目同じく右側にその体の異常に関して
原因が分からないことに対する疑問が書かれていた
4ページ目には母親に対する感謝と
自分を産んだことに対する疑問が書かれている
その後のページには疲れているのは自分だけじゃない
みんな疲れているんだ
期待してはいけない、でもどうすれば・・・など
人に対する希望や絶望、やるせなさ、どうにか這い上がろうとする苦悩
などが綴られていた
感情のままに書きなぐっているページなどを
パラパラと読み進めていくうちにだんだんと落ち着いていく様子が見て取れた
僕に出会えたこと、「0」に辿り着いて僕と色々話したこと
僕の鼻を触る癖に対するツッコミなどが無邪気に書かれている
最後のページにきちんとした字体で、ノートに引かれている横線にそって
先生に出会えてよかった
私と同じような人間がこの世にいるなんて思わなかった
先生と色々話せてよかった
先生にもっと早く会いたかった
先生に会えて救われたよ
けど、もうつかれちゃったんだ
ごめんね
空が呼んでいるから、先に行くね
先生といられた時間を持って飛ぶよ
怖くない
だって羽が生えて来ちゃったんだもん
しょうがないじゃん
空を飛んで先生のとこへ行くよ!
だから、もうちょっと待っててね
一通り読み終えた後、僕は窓の外に目を向けていた
空は晴れて水色の中に白い雲が1つ2つふわふわと浮かんでいる
もう一度書かれている文面に目を通した後
ノートを閉じてそっとテーブルの上に差し出した
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