第2話   需要と供給システムへの入口

「暁脳循環器センター」これが大元の施設だ

脳や循環器の病気を専門にしている

大きな施設でベット数も多い

脳死に伴う臓器摘出手術や臓器移植手術も行っている

この施設から少し離れた奥まった場所に「0」がある

大元の施設と通路でつながっていて、距離もそんなに離れているわけではないが

周りに植えられている木々が視覚的に距離感を生み出し

大元の施設に対して少し斜めに建設されている事もあり

パッと見で分かりづらくなっている

表向きは「暁脳循環器センター精神科」として存在している・・・が

本質は、本来の医療目的とは真逆だ

生きるため・・・ではなく死ぬため

死にたい人が臓器提供をしにくる場所・・・それが「0」だ

生きたい人には生きてもらい、死にたい人には死んでもらう

そこには社会の営みとも言える需要と供給が成り立っている

需要と供給か・・・・

そんなことを考えていたらなぜか自然と笑いがこみあげてきた

口角がすっ・・・と上がっていくのを感じる

「楽しそうですね」

少し首を左に傾けながら、女の子がこちらを見ている

「あぁ・・・そんなに楽しくもないんですけどね・・・」

皮肉交じりの女の子の問いに

つい、僕もそれと同じようなニュアンスで返事を返してしまっていた

その場の空気が微妙に歪んでしまったことに気づいた僕は

それを悟られぬよう、平静を装って書類を取りにデスクへと向かう

多少怪訝そうな表情を見せつつ、女の子はジュースに手を伸ばしていた

「では、こちらに記入をお願いします」

テーブルに書類を差し出しながら女の子に記入をうながす

もったりと体を起こしながら、女の子は書類を覗き込んだ

A4サイズの紙2枚にいくつかの記入事項が書いてある

しげしげと内容に目を通しながら女の子が口を開く

「めんどくさいなぁ。書くことってニガテなんですよね」

「あぁ、適当でいいですよ。あくまで形式上のものだから」

「すべてが終わったらきちんと処分しますから安心してください」

女の子の正直な感想と、若干の不安を感じた僕は

にっこりと微笑みながら、そう言葉をかけていた

「そうですよね!死んじゃえば何も必要ないですもんね!」

満足そうに頷きながら女の子はペンをとり、黙々と記入を始める

エアコンの動作音だけが響いている室内

記入を終えた女の子がそっと書類を差し出す

「では、1週間後にまたいらしてください。都合が悪いときはこちらに連絡を」

差し出された書類に目をやりながら、名刺を手渡す

ちらりと名刺に目をやり、女の子は持ってきた鞄にそれをしまいこんだ

「では、よろしくお願いします」

そう言って女の子はこの場を後にした


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