ようこそ「0」へ

Morgue de minuit

第1話      初めまして

時計の動作音だけが響く室内

窓から入って来る光が白い矢となって眼球を攻撃してくる

たまらずカーテンを閉めるもその攻撃は激しい

おまけにその矢は熱気と湿気を纏い、建物全体を蒸しあげていく

僕は暑さに耐えかねてエアコンのスイッチをオンにした

溜息を吐くように、排出口から冷たい空気があふれ出て来る

「あっちーなぁ・・・」

暑さのせいなのか、読みかけだった本を読破した夜のせいなのか

どうも頭が冴えない

脳には靄がかかり、電気信号を伝達するはずの脳細胞は鳴りを潜めている

どうやらカフェインと程よい糖分が必要らしい

柔らかいミルクのコクとひんやりとした冷たさも欲しいところだ

すんなりとアイスラテを思いつき

アイスラテを求めて身支度を始めた時、1人の女がドアを開けて入ってきた

肩で切り揃えられた真っ直ぐな黒い髪

うっすらと血の色をたたえた紅の唇

白いワンピースからは、同じような白さの華奢な手足が顔をのぞかせている

女ではない。女の子といった方が的確だろう

「こんにちは」

にっこりと微笑みながら、真っ直ぐにこちらを見ている

「あぁ、すいません。ちょうど出かけようとしていまして。どうぞこちらへ」

バタバタと手荷物をデスクに置きながらソファーへ促す

「はい」

返事をしつつ、辺りをきょろきょろと見渡しながら女の子がソファーへと向かう

「何か飲みますか?」

落ち着かない様子の女の子に声をかけると

「あ、えぇっと、オレンジジュースありますか?」

少し戸惑っていたが、屈託のない素直な返事が返ってきた

「オレンジジュース・・・あったかな・・・・」

冷蔵庫内をゴソゴソと捜索していると

「別に何でもいいですよ。水でもお茶でも」

慌てた様子で女の子が声をかけてくる

「あぁ、ありました、ありました。氷入れますね」

冷蔵庫横に置いてあるステンレス製の棚からグラスを手に取り

製氷庫からガラガラと氷を入れていると

「暑いですね・・・・」

うんざりとした様子で女の子がつぶやいていた

「そうですね。まだ、5月なのに・・・」

こぼさないように注意深く持ちながら

ソファーに浅く腰掛けている女の子に手渡すと

すうっと手に取り、こくんと1口ジュースを飲みこんだ

少し落ち着いたのか、女の子はふぅ・・・と一息ついた後

手に持っていた鞄から封筒を取り出してテーブルの上に置いた

目的だったアイスラテではないが、冷たいお茶を持ちながら

僕もゆっくりとソファーに腰掛ける

テーブルの上に置かれた封筒に目をやりながら

「はい。分かりました。拝見させて頂きますね」

そう言ってから手に取り、中に入っていた紹介状に目を通す

きちんと紹介状に目を通した後

「ようこそ「0」へ」

言い慣れたその言葉を僕は、いたって普通な音量で言い放った

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