第五章
「……落ち着いたかい?」
一つ目の妖怪が新しく淹れなおしてくれた紅茶を飲みつつ頷く。
「そうかい、よかった……。……そうだ、紹介が遅れてしまっていたね。私議団円特殊宗教対策課係長、橘暁と申します。」
「よ、よろしくお願いします。……あの、議団円って……?」
橘さんは少し眉を顰め、言葉を選びながらゆっくりとわたしに語り掛ける。
「簡単に言ってしまえば、妖怪を対象とした特殊な宗教……、特に暴力による革命を働こうとしている団体の実態を調査するのと同時に、一人でも多くの妖怪の洗脳を解くために活動してる団体だね。」
「暴力による革命……。」
「うん……。『信者は妖怪は人よりも優れ、万能なることを忘れず、人の淘汰と妖怪の繁栄がために寄与すべき』、『理想郷創造がためにあらゆるよしを行使することをな恐れそ、暴力のよしは無知蒙昧なる人を滅するためには要不可欠なることをな忘れそ』……。主軸となる教義だよね。……言いづらいけど、これはれっきとした危険思想だよ。実際、信者がおかしくなっているようだし……。」
危険思想……。この強烈で聞きなれない四文字に震え上がりながらも、十分に納得している自分がいた。
「……そうなんです。皆、目の色が変わってしまって、どんどん狂気的になってる……。」
「これだけ偏った思想をかざし、しかもそれが絶対視、正義として語られているんだ……、ねじが吹き飛んでしまうのはある種当然の帰結だろう……。そのような状況の中で、君は思想に染まっていないように見える。凄いことだよ。」
「いえそんな……、わたしはただ……。人間のこと、嫌いになり切れてないだけです。友達とか先生のこと、忘れられてないから。」
「それでいいんだ。極端は必ずと言ってよいほど悲劇を招くからね」
久しぶりに他人から向けられた優しさに内心緊張しながらも、わたしはかすかに笑う。表情筋がこわばりぎこちない笑顔になっているのが自分でもわかった。
「君はあそこにいちゃだめだ。もう限界なんだろう?」
「……はい。」
「君に残された手段は一つしかない。脱走だ。よければ私達も手伝うよ。」
「いいんですか?」
「勿論。こんなに傷ついてる女の子を見過ごすなんてできないからね。我々の使命だ。」
「……ありがとうございます。」
わたしは深々と頭を下げる。地獄の日々が、やっと、やっと終わりゆく未来が見え始めた。
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