第二章
式典が終わった後、わたしは公園に立ち寄った。木々が生い茂り、綺麗な花が咲くこの場所が唯一の居場所になっていた。ただ一人、誰にも邪魔されず過ごすことが出来る空間。
こじんまりとした公園の中でひときわ異彩を放つ、大きな樹の下に座る。優しい風が吹き込み、小鳥のさえずりがかすかに聞こえてくる。わたしは沈痛なまだかまりを一掃するように、大きく息を吐きだす。
見覚えがある小さな白い花の存在に気が付いた。風に呼応しかすかに揺れ続ける姿に、わたしはあの日々を思い出す。
―両親が宗教に傾倒し始める前、人間がいる場所で暮らしていた頃。夕焼けの暖かい光とはじける笑い声。親友と一緒に花を摘みながら下校する。どこからともなくやってくる夕食の香りにお腹を空かせ、小さな声で好きな男の子の話をする。ありきたりだけど何よりも幸せだった日々。あの子は、「梓ちゃんが妖怪だからってイヤになったこと一回もないよ、すごい優しいし大好き!」って言ってくれた。嬉しかった。自分の内面を認めてくれて、褒めてくれて。その時から、わたしは……。―
突風が吹く。わたしは現実に引き戻される。あの子は元気だろうか。人間との交流を禁じられてしまって以来、一切連絡を取っていない。
勿論、人間が妖怪や他の生物を傷つける行動をしてきたというのも事実だろう。両親も、両親の周りの妖怪も、理不尽で辛い目に沢山遭わされてきたと語る。わたしだって、人間の嫌な所、うんざりするほど見てきた。だけど……。
あの子達のような心根の暖かい人間が、右代様が言っていた現状を憂いている人間が存在することを知っている。同時に、妖怪の中にも意地の悪いものがいることも知っている。
私はどうしても、人間がすべての悪であるという言葉と信条を信じられないのだ。
本当は教団の一員になんかなりたくない。だけど、わたしはまだ十四歳になったばかりの子ども。両親の元を離れ一人暮らすことなんてできない。親戚も両親と縁を切ってしまっているからあてにならない。どうしたって、親と教団に寄生するしかない。
白い花に軽く触り、立ち上がった。日は暮れはじめ、少しずつ街灯が灯り始めている。わたしは覚悟が出来ていない重い足を進め始める。きっと、これからもずっと。
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