第17話

 夜の公園の練習でもそれなりの成果がだせたとなんとかさんとナントカさんが喜んでいた。


 公園では、男性も女性もその服のサイズってそれで合ってるの?って格好の人たちがたくさんバスケをやっていて、なんならうちなんて学校ジャージとかなもんだからちょっと嘲笑されていて、なんとかさんが


「冴木君!見せちゃって」

 って目がギラ付いてて、佐藤愛子とパス交換をして、ナントカさんにボールを渡すとドンピシャのタイミングでバックボードから跳ね返ってきたボールが手に吸い込まれ、ダンクシュート。


 学校のものよりゴールの位置が高かったので、後ろに反るように身体のバネを使って飛んだら勢いがつき過ぎてぶつかりそうに。

 なんとかそのままリングを掴んでぶら下がって回避したら、成長しても洋服着れるようにしている人たちからも歓声が上がってハイタッチ。

 バスケコンビ女子は鼻息荒くして二人でドヤ顔。

 俺じゃない奴がドヤ顔するのは、前日のフットサルと同じパターンですね…


 みんな運動神経はよく、佐藤愛子も半田和成もいたせいで嘲笑されることはその後なかった。

 調子に乗って何度かアリウープをしていたのだが、その公園のバスケットコートに学校ジャージ着たエアジョーダンがいるって写真付きでSNSに拡散されていたのは後日談。

 カクテルライトのおかげで顔が写ってなかったのは幸い。

 佐藤愛子がその写真をしばらくの間、携帯の待ち受けにしてたのが少し恥ずかしかった。


 佐藤愛子はバレーにも出場するらしく、ここ最近練習もあったから一緒に帰ることが多かったのだが、当然その日は帰れない。

 前日はクラブチームの練習があったので、別々にだったし、今日も一緒じゃない…って悄気てる佐藤愛子のためにバレーボールの練習を見学する事に。


 茅ヶ崎彩音もバレーに参加していて、皆んなそれなりに上手い。

 バレーの方は男子バレー部が何人かいたらしく、これは優勝候補だね。って休憩中に俺の隣に座ってきた背の高い方のなんとかさんが話しかけてきた。


「バスケ部コンビのもなんとかさんがいるから楽勝じゃない?」

 ん?って顔をした後


「まさか名前覚えてないとかじゃないよね?なんとかさんって私?あの子?」

 俺がタジタジしているのを見て、二人とも?信じられない…ってびっくりしていた。


「佐藤さん、佐藤さん!この人私たちのことバスケ部コンビのなんとかさんって名前すら覚えてないんだけど!」

 あちゃーって顔をした佐藤愛子が近づいてきてて、全員が休憩なのか


「無理無理。ケンシなんてクラスの大半の人たちの名前覚えてないと思うよ。なんならこれだけ絡んでる私の下の名前すら覚えてないまであるからね」

 ちょー笑えるよねって茅ヶ崎彩音。


「彩音だろ彩音。流石にそれくらい覚えてるわ」

 なんか言い訳考えてたんだけど、変な顔をした茅ヶ崎彩音がもう一回名前で呼んで!って腕を掴んでおねだりしてるのを、佐藤愛子が私だって名前です呼んでもらったのなんていっかいしかないのに!って変な方向に脱線したので事なきを得た気がするんだが、なんとかさんはいじけた顔をして怒り気味…


 まさか半年以上クラスメイトしてて名前も覚えられてないとは思うまい。その辺が俺がクラスメイトAである所以なんだよ、なんとかさん…


 今度、佐藤愛子に頼んで全員の顔写真で名前当てクイズでも敢行するかな…


 金曜、土曜で行われる球技大会当日。

 バレーボールの予選は三年生チームが一回戦の相手だったが、なんとか勝利。

 その後は無難に勝ち進んだようで、二チーム中、一チームは決勝トーナメント進出したらしい。

 もう一チームの方は初戦で優勝候補と対戦して負けてしまったらしく、明日は順位戦なんだとか。


 俺が出場するバスケの方は、これを勝てば決勝トーナメントってとこなんだけど、相手は経験者が多いらしく、素人のパスはなかなか通らない。

 ドリブルで突破しようとしても付け焼き刃の素人ドリブルでは全て止められてしまう。


「たしかシュートモーションに入ってる時の接触はファールなんだよな?」

 なんとかさんが


「両足が地面に着くまではね」

 そう言ってシュートポーズをしながら説明してくれるナントカさん。それを聞いて俺の意図を説明。やってみようって意見が一致した。


「疲労度がすごいと思うよ。この後サッカーもあるんだよね?」

 なんとかさんが話しかけてくる。

 背が高いなんとかさんは視線がそこまで俺と変わらない。170cm以上はある感じ。

 じっと俺の目を見て苦笑したあと


「渡辺真那。私の名前だからね。覚えておいて」

 踵を返すと、ぜったい勝つよ!って大きな声でチームを鼓舞するなんとかさん改め渡辺真那。


 マイボールで始まってすぐセンターサークル手前から助走をつけて走りだす。

 スリーポイントライン手前でパスをもらうとそのまま飛んだ。流石に届かないのはわかってる。


 彼女の方を見たらばれる。


 絶対来てくれているって確信して、シュートモーションのまま左側のスリーポイント外にいるであろう渡辺真那にパスをだした。

 俺の方に相手が集中してくれいたこともあってか、パスが通る。

 それをきっちりと渡辺真那がスリーポイントを決めて点差は後四点…

 時間もほとんどない。


 今度は逆側にいたナントカさんに同じようなことをもう一度成功させて、更に二点の追加。


 応援に駆けつけてくれていたもう一つのバスケチームと、バレーに出場していて決勝トーナメントに向けて余力を残す事を考えて控えに回った佐藤愛子と茅ヶ崎彩音が抱き合って喜んでいるのが見える。


 けれど、この後二回同じことをやるのだが、意図を見抜かれてパスが通らない。


 太腿の筋肉が悲鳴をあげている…

 更に二回スリーポイント辺りから飛んだものの、全然飛距離が足りない。

 フェイントにもならずパスも通らない。


 その間に相手に点を取られて再びの四点差に。残り時間があと三分…


 負けたら意味がない。

 そこで選手交代で佐藤愛子が出てきた。

 目が合う。

 ナントカさんが奪ったボールが、渡辺真那を経由して佐藤愛子へ。

 彼女が放ったシュートは綺麗な弧を描きスリーポイントが決まって一点差にまで来た。

 去年、様々な種目で大活躍していたってのも納得の運動神経。


 残り時間がほとんどない。しかももちろん相手ボールからのスタート。

 なんとか自陣ゴール前で半田和成がボールを奪うと渡辺真那にパスが通る。目があった気がした。


 確信があったわけでもない。疲労度は限界。


 飛べるかも分からない。

 ボールが来るかも分からない。

 けど信じて飛んだ。

 フリースローラインギリギリからのジャンプ。


 空中。右手でボールを受け取った時に終了のブザーが聞こえたがそのままリングに叩き込んだ。


 ゴールキーパーやってなかったら、絶対片手でボールなんて受け取れなかったわって思いながら、スローモーションのようにリングに吸い込まれていくボールを落下しながら眺めていた。


 シュートを打つ瞬間には終了の合図が聞こえたのは間違いなくシュートを打つ前。

 あーあ、負けた。

 あと少し、五秒早くシュートを打ててたら勝てたのに…


 背中から落下した衝撃と、負けたことで疲労感に一気に襲われ、コートに大の字になりしばらく動くことができなかった。

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