第14話

家に帰るといつから待っていたのか今日三度目の仁王立ちを目撃。

長富杏香、佐藤愛子ときてまた長富杏香だ。

彼女が家に一日二日来てないだけで、なんか久しぶりな気がする。


「なんか言うことがあるだろ!」

え?なに?俺なんかした?あれはあれでもう終わったよね?

まさか、プロポーズってあらぬ誤解が親戚のこの人の耳にまで届いてるとかなのか?

とりあえず


「た、ただいま?」

「おかえり。ってちがう!」

もう、なんだよ面倒臭い…


「お帰りたつ。ご飯出来てるけど先食べる?」

「食べたいけど玄関に大魔神みたいなのがいてそっちにいけないんだけど」

「大魔神ってなんだお前!昼間は杏香ちゃん愛してるって言ったくせに!」

「言ってないわそんなこと!何どさくさに紛れて尾鰭付けまくってんだよ。で、言わなきゃいけない事ってなに?全く思いつかないんだけど…」

「え?だから杏香ちゃん愛してるよだろ」

「ご飯よそったよ。杏香ちゃんもたつのこと揶揄わないで。泊まりに来れなくなるよ」

リビングで笑ってる小春の声が聞こえてくる。


さっきのは何だったんだ?ってくらい静かに食事が進行していった。

いつもならふざけて戯れ合う感じの会話もなく、ただ淡々と。


食事終え、皆が食べた食器を纏めながら二人の顔をチラ見するが特にこれと言った変なところは無く、ただいつも飛び交う変な会話もない。

食器を纏めて食洗機の中へ入れていると、キッチンに来た小春がコーヒー飲む?って感じでコーヒー豆の袋を振っていた。


テーブルにつき、それが出てくるのを待っていると、長富杏香がテーブルに頭をぶつける勢いで申し訳ないって突然頭を下げた。


「え?なに?やっぱ退学なの?」

「んなわけあるか。昼間のこともう一度きちんと龍臣に謝罪しようと思ってな。

望月に言われたバタフライエフェクトは流石にこたえた。軽はずみな行動、言動がお前たちにあんな顔をさせたんだっておもったらな…」

「え?そのくせ愛してるって言えっておかしくない?」

彼女が話している途中でびっくりするような矛盾言っているので思わず話を遮ってしまった。

俺が笑っていると


「そうなんだよ…ついついそんな軽口が出てしまう私の悪い癖なんだ…」

「もういいじゃん。先生がこの家にいないとさ、なんかやっぱパーツが足りない気がしちゃうんだよね。もうさある意味もう一人のねぇねなんだから、普通に行こうよ。次は俺が先生の背中流してあげるからさ」

これで話しはおしまいって意味でニマッと笑ってみせた。

ま、最後のは恥ずかしさからくる軽口。

タイミングよく小春から渡されたコーヒーをふーふー言いながら飲もうとしたら、意外や意外恥ずかしがってる長富杏香がいる。


この人のステータスって戦闘力に全振りしてて防御力皆無なのかもしれない。

そんな長富杏香を見て、小春と顔を見合わせて大笑い。

やっとこれで日常が戻って来たって思えた。



九月二十六日

文化祭の三日目の朝

今日もたっちゃんの家まで迎えに行った。

陸上部にリベンジしたかったのか、わざわざランニングシューズを持っていってたけど、相手はスパイクでやってきて、たっちゃんは狡くない?って吠えてた 笑

僅差だがたっちゃんは負けてしまいくやしそう。

負けたけど僅差なことに相手もびっくりしてて、買ったときにもらえるはずのおまけだったはずなのに、色々もらって金木犀の木のそばで二人でお腹いっぱいのしあわせ。

学校で手を繋ぐのは流石に恥ずかしくて、でも側を離れたくなくて、離したら何処かに行っちゃう気がして、腕を掴んでた。

最初はなんで?って言ってたけどすぐに言われなくなって、三日目はそれが当たり前のようになってて、たっちゃんがすぐそばにいるのは恥ずかしいけど嬉しい。

後夜祭でははしゃぎすぎたみたいで、佐藤さんノリノリだねって皆んなに言われて、恥ずかしくもあり、でも楽しくて、でもそんな時のたっちゃんはやっぱり騒がしすぎるのはまだ苦手みたいで、少し離れたところで守屋さんと話してるのを見て少しだけ心に棘が刺さった気がした。

たっちゃんに沢山の友達ができるのは嬉しい。

いろんな人と話してるのを見るのも嬉しい。

でも私がそれを見るのは少し辛くて、我が儘だけど、どうせ私だけじゃ楽しくないよねって考えちゃう私は嫌な女だ。

望月先輩に、たっちゃんの優しさに甘えすぎるなって怒られて、その通りだなって思えたから何も言い返せない。心に落ちたように、納得が出来た望月先輩の言葉。尊敬したゃうけど、たっちゃんに抱きついてたのはどうなの???

たっちゃんの優しさが他の人に向いてるのを見るのが辛い。


次の日の休みの時何処かに行く?って聞かれたけど、二人でゆっくり過ごしたいって言った結果、たっちゃんの家に行くことに。

杏香ちゃんがまた泊まってたみたいで、朝私が行くと眠そうに玄関の扉を開けてくれた。

杏香ちゃん泊まってるなら私も前の日から来ればよかった。

小春さんが前に空き部屋だって言ってた部屋が完全に杏香ちゃんの部屋になってた。

小春さんも起きて来て、鼻歌を歌いなが珈琲を淹れてくれた。

そう言えば小春さんって彼氏とかいないのかな?凄く美人だし、優しいし、お料理も上手だし、こんな人が、朝から優しい微笑みで珈琲淹れてくれたら私なら結婚してくださいって言っちゃいそう 笑

三人で珈琲を飲んでる時またズボンを履かないままたっちゃんがリビングまで出てきた。

杏香ちゃんもいるんだからその格好はやめて欲しい…

私の顔を見ると、おはようって言った後部屋に戻って行った。

その日は特に何をするわけでもなかった。

二人で部屋でまったりしてて、ずっと話してるわけでもなく、たっちゃんは勉強してたり本を読んでたりそれでも全然嫌じゃなくて、そばにいれるだけで凄く幸せ。

帰る時たっちゃんが駅まで送ってくれたんだけど、帰りたくなくて涙が溢れてくる。

多分たっちゃんは気づいていたと思うけど、何も言わず手を握ってくれた。

その優しさが辛くて余計帰りたくないって思えた。

たった一駅なのにたっちゃんがいないだけで空虚感を感じてしまう。

駅に着くとお母さんと佳奈美とチョコが迎えに来てくれてて、なんだか嬉しくて家までの帰り道涙が出てきてびっくり…

お母さんが優しく頭を撫でてくれた。

早く明日になって欲しいと願った。

たっちゃんに早く会いたい。


日記を閉じるとベットに横になる。

なんかたっちゃんのことばっかり。こんなの見られたら私死ねる。

独りごちて苦笑い。


たっちゃんは少しずつ変わろうとしてて、最近たっちゃんの格好良さに気づいてきた人たちが増えたのか話題になってるのを何度か聞いた。

顔に出ないようにしてるつもりだけど、どうなんだろう。

学校でもたっちゃんって呼び始めたのもこの頃で、私の少しだけの抵抗。


彩音が私もたっちゃんって呼ぼうかなって言うから、ダメって言ったら大笑いされた。

もう、揶揄わないでって言って膨れてたんだと思う。

ほっぺをむにむにされる。


彩音と仲良くなれたのもある意味たっちゃんのおかげ。

彩音のことも大好きだけど、彩音もたっちゃんの事が好きで凄く複雑。

彩音の事も応援したいけど取らないでって思うしどうしたらいいか分からないって言ったら彩音は抱きしめてくれて、ライバルだねって微笑んでいる。


「私ね。ケンシの事好きだけど、愛子の事もそれ以上にちょー好きで、どっちかを選べって言われてもちょー困るの。

でも誤解しないで欲しいけど、ケンシへの想いが少ないわけじゃなくて、私が好きになったケンシは愛子と笑ってるケンシで、ケンシに微笑んでる愛子の笑顔が一番素敵で、二人が一緒じゃないと私の好きが無くなるんだよね…それが私の一番の悩み」

頬をかきながら微苦笑の彩音は少し苦しそうで、今にも泣き出しそうで、親友にそんな顔をさせている私は何なんだろうって


「辛いけど彩音と一緒にいられるのは幸せよ」

驚いた顔してたけど、そうだね。私もって言ってくれた彩音の笑顔は苦しそうではなかった。


その笑顔はすごく可愛くて、優しくて、たっちゃんが彩音の事が好きだって言ってきたら応援しようってこの時決めた。

その時私は笑って祝福してあげられるかな…


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