第239話 サラの魔法道場 其の四
「お、そうじゃ。せっかく来てもらったのにお菓子もお茶も出してなかったねぇ。そこに座って待つさね」
サラさんの指したソファに腰かけると、サラさんは部屋の奥にある戸棚を開けてクッキーを持ってくる。隣にいるルカくんを見ると目を丸くしている。あのクッキーは隠してあったんだろうか。
「ルカもおいで。これは口止め料でもあるさね、他のみんなに言うんじゃないよ」
「は、はい。もちろんです」
ニヤリと笑ってルカくんにクッキーを一枚渡すサラさん。いきなりクッキーが出てきたことに戸惑いながらもルカくんもニヤリと笑って受け取る。二人が悪い顔で笑いながらクッキーを渡す光景はさながら賄賂の受け渡しのようだ。
促されるままにクッキーに口をつけると、サクサクとした食感の後に心地よい甘さが口腔にふわっと広がる。美味しい──以前アズリダで食べたものも美味しかったが、これも負けず劣らずだ。
「二人とも夕飯に響かないくらいにしておくんだよ。夕飯前に食べたと知れたら私が食堂の人に怒られる。コルネくんも他の人には秘密にするさね」
笑いながら口の前に人差し指を立てるサラさんは子どものようだった。
クッキーを食べながら、サラさんからこの道場でのだいたいのスケジュールを聞く。朝食の後から修行、昼休憩を挟んでまた修行、そこからは自由時間があって夕食──レオンさんのところと比べると昼の休憩が少し長い。
魔法は剣術に比べて人それぞれ系統や使い方も違うので、一人一人のところを毎日サラさんが時間を決めて回っていくそうだ。
俺は好きなときに討伐に向かっていいらしいが、お弟子さんから魔法の研究への協力と頼まれたときはなるべく協力してほしいと言われた。
聞けばここには魔法学校で習うような一般的な魔法だけではなく、オリジナルの魔法をすでに持っていたり開発していたりする人が多いらしい。そういった人が何かヒントにならないかと俺の魔法剣について知りたいそうだ。
魔法剣はともかく魔法については威力の低い簡単なものしか使えないので、正直力になれるかは分からないが最大限協力しよう。
「何か困ったことがあったら私かルカに言うさね。ルカ、コルネくんを部屋まで案内して、荷物を置いたらそのまま食堂に直行さね。私は書類を片付けてから食堂に行くよ」
「分かりました」
見ればサラさんの机には山というほどではないが書類の束が乗っている。ひとりひとりの魔法の修行に付き合うって、書類も書いて──サラさんは大変だな。
「じゃあ行こっか、コルネくん」
ルカくんに連れられて隣の棟にやってくる。修行はサラさんの部屋がある棟やその近くでして、寝泊まりするのはこっちの棟らしい。
明るい色の壁に、灯りのともったランプ、そしてところどころにある花瓶──ここもお洒落だな。
一階は談話室になっており、ここでゲームをしたり集会をしたりするらしい。階段を上り、部屋へと向かう。
「ここがコルネくんの部屋だよ」
案内された部屋にはベッドや机が二つずつ──どうやら二人部屋のようだ。使われている痕跡がないので、ルームメイトはいないのだろう。
「今は部屋に余裕があるからね。コルネくんにはここを一人で使ってもらって──俺は隣の部屋だから何かあったら呼んで」
ルカくんが隣なのは心強い。隣なら部屋を探して迷うこともないし。そうだ、ルカくんに会ったら渡そうと思ってたものがあったんだった。
「ルカくん、あのさ──」
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