第240話 サラの魔法道場 其の五

「ルカくん、あのさ──魔力結晶って知ってる?」

「もちろん知ってるけど……あのダンジョンから採れて魔法が使いやすくなるアレだよね?」


 突然の質問にキョトンとするルカくん。部屋の案内をしていたのに全く関係ないことを訊かれたらびっくりもするか。


 魔力結晶は基本的にダンジョンで直接採ってくる他に入手方法はない。ここの道場でもきっと持っている人は少ないはず。だとしたら、他のお弟子さんの目がない場所で渡した方がよさそうだ。


 このタイミングを逃したらいつ二人きりになれるか分からない。渡すなら今ここでだろう。


「こないだ師匠とトレトで採ってきたんだけど、ルカくんに合いそうなのがあったからあげようと思って」


 ほら、と鞄から持ってきた紫色の魔力結晶を取り出すと、ルカくんが固まる。


「な、なな……」

「な?」


 ルカくんは俺の手の上でキラキラと輝く魔力結晶をプルプルと震えながら指差している──と思えば胸に手を当てて深呼吸を始める。何回か吸って吐いてを繰り返して落ち着きを取り戻したのかルカくんはゆっくりと話しだす。


「……なんでそんなもんが鞄から出てくるんだよ。コルネ……ま、魔力結晶といえばダンジョンでしか手に入らない──き、貴重品じゃないか!」


 ひそひそ声でルカくんが驚いている。やはり壁越しに会話が隣の部屋に聞こえてしまうのを気にしているのだろうか。


「そうなんだけどこの魔力結晶は俺には合わないみたいだし、宝の持ち腐れになるよりは相性のよさそうなルカくんにと思って」

「たしかに毒系統メインの俺に合いそうなら逆にコルネには合わないかも…………それで、いくら払えばいい?」


 ごくりと唾をのみながらスッと財布を取り出すルカくん。


「お金はいいよ。こないだの怒濤の討伐クエストでそれなりにあるからさ」

「いやいやいや、いくらお金を積んでも買えないようなものをタダでって──まあ俺もそんなに持ってるわけじゃないけどさ」

「じゃあ出世払いでいいよ。それにもうルカくんのお世話になってるわけだし」

「そ、そう? じゃあありがたくもらっておくよ」


 丁寧に魔力結晶を受け取り、どこにしまうか悩んだ結果、そっと上着のポケットに入れるルカくん。さっきからずっと狼狽えっぱなしで見ていて面白いな。


「そういえば、どさくさに紛れて俺のことコルネって呼んでたよね?」

「え、あー…………言われてみればそうかも……じゃあ俺のことも呼び捨てでいいよ」

「そっか。荷物を置いたら食堂に行くんだっけ、ルカ」


 久しぶりに会ったと思ったらいきなり呼び捨てで呼ぶことになるとはね、と笑いながら荷物を置いて俺たちは食堂へと向かった。

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