第238話 サラの魔法道場 其の三

「よかった、覚えててくれたんだ」


 そう言って安心したように笑う少年には、昔サラさんと一緒に来て毒魔法を教えてくれたルカくんの面影がある。背も伸び、声も低くはなっているが、笑い方は昔のままだ。


「では改めまして──ここでの案内役は俺、ルカが務めます。どうぞよろしく」

「冒険者のコルネです。お世話になります」


 おどけた様子で挨拶をするルカくんに少しふざけながら挨拶を返す。


「じゃ、早速サラさんのところに行こっか」




 ルカくんに案内されながら、サラさんの道場の中を歩く。内装はアクスウィルの魔法学校に似ているが、大きな建物の外見から想像したよりも構造は入り組んでおらず、部屋が横並びに続いていた。


 ルカくんが言うには、魔法の練習は基本的に屋外でやるため、部屋を使うのは私用が多いらしい。たしかに魔法の炎が建物に燃え移りでもしたら大変だからな。


 いかにもサラさんが中にいそうな豪奢な扉の前まで来ると、中から声が聞こえる。


「入るさね」


 この口調も久しぶりに聞いたな。ルカくんが扉を開けると、そこには記憶のままのサラさんが立っていた。もうそれなりの歳はいっているはずなのにしゃんと伸びた背筋は若々しく見える。


「よく来たねぇ、コルネくん。見ないうちに大きくなったもんだね。まずはAランク昇格おめでとう」

「ありがとうございます」

「私からもお祝いを用意したかったんだけどねぇ、ロンドに訊いても分からないと言われてしまってね。何か欲しいものはあるかい?」


 そういえばここに来ることが決まってから師匠に「欲しいものはあるか」と訊かれたな。あのときは「特にない」と答えたっけ。Bランクの討伐報酬でお金は困らないくらいにはあるし、特に高額なものがほしいということもない。


「特にない──ですかね。ラムハでの暮らしに満足しているので」

「なるほど……昇格のための討伐報酬で大抵のものは変えるくらいのお金はあるだろうからね。強いて──強いて言うなら何かないかい? 魔法師団にあるくらいのデッカい魔力結晶くらいならなんとかならんこともないさね」


 それもすでに道場にあるんだよな……師匠にあげたら喜ぶだろうが、それは俺がほしいものではない。物以外なら一つあると言えばあるが──いや、これは土台無理な話だ……しかしサラさんはお弟子さんも多く、いろんなところに顔が利くはず。言うだけ言ってみるか。


「人探しを頼みたい……です。エミルという名前の盾使いなんですが」

「分かった──早速明日から動くかね。その盾使いとはどういう関係なんだい?」

「幼馴染です──俺とアドレアの。二年前からどこにいるかも分からなくて……別にどこかで元気にやってるんならいいんですけど、連絡も何もないから心配で……」

「なるほど……見つかるかの保証はないけどやってみるさね」


 広い王国からたった一人を探しだすなんて無茶だと思ったが、サラさんなら出来るんじゃないかとどこかそういう気持ちもあった。

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