第176話 宿屋にて
結局、師匠は三皿のタリアを平らげていた。美味しかったからというのももちろんあるだろうが、涼しい顔の裏では実はかなり消耗していてお腹を空かしていたんじゃないかと思った。
宿屋の部屋は兄さんと俺が同じで他の二人は別々だ。備え付けのベッドは一部屋に二つまでしかないので、別れることになったのだ。
師匠は「僕は一人で大丈夫だから」と言うので、その言葉に甘えて兄さんと同じ部屋に泊まることにした。
寝る支度を整えベッドに横になると、急に懐かしい気持ちになった。こうして兄さんの隣で寝るのはいつぶりだろうか。
「コルネ、まだ起きてるか?」
「うん」
「あのさ──俺、この旅に一緒に来られてよかったよ」
「そっか」
兄さんがそう思うのなら何よりだ。
「今日一日話してて分かった──ロンド様はやっぱりすごいな」
「俺の自慢の師匠だからね」
俺がそう答えると、ふふっと笑う兄さん。
「無邪気にいろんなことを楽しんだり、初めて食べるタリアにはしゃいだりしているのを見ると本当にSランク冒険者なのかと思ってしまうけど、やっぱり実力は本物だ」
真面目な口調で話し始める兄さん。
「マリーに魔力操作を使いながら自分は何にもなしであれだけ飛ばしておいて、まだあんなにはしゃぐ元気が残ってるなんて嘘みたいだよな。体力一つとっても俺とは格が違うと思ったよ」
たしかに師匠はマリーに魔力操作を使いながら走っていた。しかし、師匠が何も使わずに走っていたわけではないと俺は考えていた。
おそらく師匠は風の魔法を使って自分のスピードを上げていたんじゃないか──と。
俺がそう伝えると、兄さんは驚きを通り越して呆れたような顔をする。
「おいおい、他人の魔力を操りながら自分では魔法も使えるなんて聞いてないぞ……」
兄さんは魔力操作というものを今日知ったばかりなのだから、師匠の魔力操作でマリーが魔法が使えなくなるのを見てそう誤解するのも無理はない。
ちなみに俺もできる、と言ったら兄さんはさっきよりも驚いていた。
「本当にコルネは強くなったんだな……コルネにとってロンド様が自慢の師匠なら、俺にとってコルネは自慢の弟だよ」
暗くて顔は見えないが、そう話す兄さんの声音はとても優しかった。
照れ臭くなってまだまだだよ、と返すと兄さんからの返事は返ってこなかった。
疲れているだろうし、きっと寝てしまったんだろう。
おやすみ、と小さく呟いて、俺も眠りにつく。
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