第175話 タリア
レクタムで宿を取って一息ついてから、夕食を食べるために宿屋を出る。昼過ぎに間食をとってはいるが、最後に走ったせいでお腹はぺこぺこだ。
「ここのお店に行きたいんだけど──」
「俺はいいですよ」
ウキウキしながらガイドブックのとある記事を指差す師匠。俺はレクタムに来たことがないから、断る理由もない。
「私も大丈夫です」
「俺もです──そこ行ったことありますけど、美味しかったですよ」
マリーと兄さんも特に異論はないようだ。
じゃあ行こっか、と言って、以前行ったときはどうだったかと兄さんに訊きながら元気に進んでいく師匠の後ろで、マリーがひそひそ声で俺に話しかけてくる。
「ロンド様、めちゃくちゃ楽しんでるみたい。ラムハで私を追い返したときとあまりにもイメージが違うっていうか……」
「師匠は今回の旅をずっと楽しみにしてたしね」
「楽しみにしてた」という俺の言葉に驚くマリー。
「えっ、楽しみにしてた? 私とコルネだけじゃ危ないかもしれないから、保護者として仕方なくついてきたとばかり……」
「本当にそう見える? あんなに浮かれてるのに?」
「──見えないわ」
そう答えつつも、マリーはいまだ信じられていない様子だ。
「マリーの手紙を読んで俺が行ってもいいか訊いたら、師匠は自分から行きたいって──レネさんに会えるって聞いてすごくはしゃいでたな」
「それが目的なんだ……たしかに有名だもんね、《
「師匠は手続きが面倒すぎて自発的に出掛けることはないんだ。だからきっと、どんな形であれこうして旅が出来るのが嬉しいんだと思う。マリーもどうせなら道行きは楽しい方がいいだろ?」
俺の問いかけにもちろん、と頷くマリー。
「二人とも! 早く早く!」
歩きながら話していたが、かなり距離が離れていたことに師匠の呼び声で気付く。俺も師匠のようにこの旅をめいっぱい楽しまなくちゃ。
マリーと軽く頷きあい、急いで前の二人に追いつこうと走り出す。
「もちもち! もっちもちだよ、コルネくん」
お店で出てきた料理に舌鼓を打つ師匠。
食べているのはレクタム名物の「タリア」と呼ばれるパスタだ。小麦が主食とされることの多いレンド王国全土でパスタはそれなりに親しまれているのだが、ここレクタムのタリアは一味違う。
一般的にパスタというと細麺のことを指すことが多いが、このタリアは幅広の太麺なのだ。太麺ゆえの独特のもちもちとした食感が特徴で人気が高い──とここまでが師匠の受け売りだ。
そんなにもちもちなのか、と思いながら俺も目の前にあるお皿から麺を巻き取り、口に運ぶ。
「これは──もちもちですね。ソースとよく絡んで美味しいです」
「だよね~、これだったらいくらでも食べられちゃいそうだよ」
通りがかった店員さんを呼びとめておかわりを頼む師匠。気付けば師匠のお皿にはもうほとんど麺は残っていない。「いくらでも食べられちゃう」というのは、もしかすると比喩ではないのかもしれない。
もちもちのタリアを食べて一段とテンションの高くなった師匠に二人はついていけてないようだ。
「は、初めて食べましたが美味しいですね」
「美味しいです」
そう言いながら麺を巻き取る二人は、「いつもこうなのか」とでも問うように視線を投げかけてくる。
俺は概ねそうだと応えるように小さく頷く。納得したような素振りを見せ、二人はまた太麺を口に運ぶ。
そうこうしているうちに師匠のお皿は空になっており、今度は違うソースのタリアがやってくる。
新たなタリアが運ばれてくるのを見て顔をほころばせる師匠はとても嬉しそうだ。
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