第174話 ルミーヴィアへの旅 其の三

 マリーと近況報告をし合ったり、思い出話に花を咲かせたりしていると、ラムハまで戻ってくる。太陽はまだ高く、昼を過ぎたあたりだ。


 並の冒険者だと半日ほどかかるのだが、まず俺と師匠は魔力操作が使える分、疲れを軽減できる。


 アルノ兄さんは今は引退しているとはいえ、もともとはBランクパーティの冒険者だ。当然、歩いての移動にも慣れているし、不安だったために旅に同行すると聞いてから体力を戻していたらしい。


 残るマリーだが、回復魔法を使って体力をこまめに回復させているため、速めのペースでも歩き続けることができたというわけだ。


 俺の知る限りではこんなに何度も短い間隔で回復魔法を使えてはいなかった気がしたので、訊いてみるとこんな答えが返ってきた。


「回復魔法を学びたいと思ったけど、何をすればいいか分からなかったから、とりあえず回復魔法をかけまくってみたの」


 何回も繰り返し使っていたところ、だんだん慣れてきて連発できるようになったそうだ。


 ラムハはマリーだけでなく兄さんも来たことがあるそうで、街の市場を見て懐かしいと言っていた。


 今のペースなら次の大きな街──レクタムまで日が暮れる前に行けそうだということで、そのままラムハを通り過ぎてレクタムを目指すことになった。


 ペースを上げたために普通に歩くよりは早く着いたが、その代わりに少し前に昼食を入れたはずのお腹が鳴っていた。


 串焼きなどの歩きながらお腹に入れられるものを買い、食べている間も歩き続ける。ラムハからレクタムまでには小さな村が二つあるのだが、宿屋も複数あるとは思えないほどの規模である上に、どうせならレクタムで泊まって名物を食べたいと師匠は言っていた。


 レクタムの手前にある村を抜ける頃にはすでにほとんど日は落ちており、途中からは師匠と俺で交代しながら日や光の魔法であたりを照らしながら歩いた。




「やっと着いた……ヒール……ヒール……ヒール……」


 レクタムの入り口でそう呟くマリーの息はまだ少し上がっていた。途中から本格的に暗くなってきたので、空が夜闇に覆いつくされる前にレクタムまで辿り着こうと急いだ結果だ。


 魔力操作で師匠がマリーが歩くのを扶ければいいのでは、と試したのだが、自分の意思とは無関係に魔力を動かされていると、その間はマリーが上手く回復魔法を使えなくなってしまうらしい。


 その結果、マリーはある程度の距離を師匠に魔力操作を使ってもらいながら素早く移動し、立ち止まって回復魔法をかける──この繰り返しでレクタムまで来た。自分では本来出せないような猛スピードで幾度も走っていれば、いくら回復魔法があるといっても疲労は蓄積していく。


「俺も魔力操作が使えればな……」


 そう呟きながら膝に手をついて休んでいる兄さん。猛スピードで走らされるマリーに兄さんは魔力操作なしでついていったのだから、疲れるのは当然だ。


「ええと、レクタム、レクタム──と」


 息を整えている兄さんやマリーの横で、師匠はいそいそと鞄からガイドブックを取り出し、めくり始めるのだった。

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