第139話 ステージ 其の二

「今までたくさん練習してきたんだから大丈夫。俺たちなら出来る」


 ステージの裏で、マシューさんがみんなに言い聞かせる。その言葉にゆっくりと頷く俺たち。


「聞こえてしまうかもしれないから少し抑えめに──行くぞ! えい、えい──」

「「「「「「おー!」」」」」」


 すると、そこで前のグループの演奏が終わり、俺たちの番が来る。




 最初の一曲は俺たちと師匠は休みで、二曲目からステージに上がる手はずになっている。ステージの袖から演奏を聴いていたが、四人の演奏はいつもと変わらず完璧だった。


 もしかしたら、微妙に間違えたところもあるのかもしれないが、一番演奏を聴いてきた俺たちが分からないのなら誰も分からないだろう。


 そして演奏が終わり、師匠と俺がステージに上がる。ステージに上ると、近くにいるたくさんの人の顔が見える。


 そのたくさんの人は広場いっぱいにいることが、高くなっているこのステージからは分かってしまう。どこを見渡しても地面が見える場所はない。


 こんなにたくさんの人が見ていることなど、頭では分かっていたが、改めて認識してしまい体が強張る。


 師匠も緊張しているだろうか、と横を見ると、師匠の口の端は上がっていた。まるで、そう──このステージが楽しみで仕方なかったかのような顔をしていた。


 そうだ……失敗を恐れたり、たくさんの人の前で縮こまったりする前に、まずこのステージを楽しまなくちゃ。どんなステージになっても「楽しかった」って後から言えるように。


 後ろのアルと目を合わると、アルは太鼓のばちを打ち鳴らす。ばちが四回鳴ったところで、光の魔法剣を発動させる。


 不安で前にいる人の反応をちらっと見てしまったが、楽しんでくれているようだ。


 ──セブン、エイト。八拍を数え終わると、淡く光っている光の魔法剣から雷の魔法剣へと切り替え、それと同時に師匠へ剣を打ち込む。


 師匠も八拍までは何も纏わせていなかったところから、土の魔法剣になっている。師匠の土に覆われた剣は、俺の雷の魔法剣をしっかりと受け止め、はじく。


 はじかれた反動で俺は後ろに下がり、打ち込んできた師匠の剣を風の魔法剣で受け止める。


 ここまでは練習通りで、動きも拍とぴったり合っている。このまま落ち着いていけば大丈夫だろう。


 そろそろ次のパートに移るところだ。光の魔法剣を除いた最初のパートでは、水、雷、風、土の四種類だけが使われていたが、ここからは氷の魔法剣を追加する。


 雷の魔法剣から氷の魔法剣に切り替えるとき、雷の魔法を消したときの残滓が氷をわずかに光らせて綺麗なのだ。


 そしてここでは、師匠と俺が押したり押されたりという演出が入る。まずは俺が師匠に何度も打ち込まれ、劣勢に立たされる。


 そこから俺は体勢を立て直し、師匠に連続で打ち込んでいく。


 ──というプランなのだが、問題が発生した。

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