第137話 圧

 見つかってしまった以上、逃げるわけにはいかず、領主様たちに連れられるまま近くの喫茶店に入る。領主のアラン様がいるのだ、滅多なことは起こらないだろう。


 店内に入ると、通りの喧騒とは裏腹に、繁盛しているという程度で溢れかえるほどの人はいなかった。人の流れから抜け出して店に入るのが難しいためだろうか。


 街の中心部に近いこの喫茶店は、値段が高いため来たことがなかったが、領主様はそうではないらしい。堂々としていて、店員に慣れた様子で注文を伝えている。


 連れられてきたのはいいが、案内された丸いテーブルにアラン様、ジャン、青年二人、女性が一人、それに俺が向かい合うように座っている。しかも俺の正面はアラン様だ──とにかく居づらい。


 俺の知らない三人のうち、おそらく女性は領主夫人、さっきジャンを肩車していた青年は騎士……だろうか。いや、騎士にしては若すぎる。


肩車をしていた青年は俺と同じくらいの歳、もう一人は三つか四つ俺より上だろうか。護衛をつけるならもっと歳が上のはず──となると、肩車をしていた方は家族か親戚だろうか。


 もう一人も護衛にしては眠たそうな顔をしているし、体をそれほど鍛えている様子もない。こちらも家族か親戚といったところだろう。


 ということは、おそらく五人は全員家族か親戚の関係にあって今日は内々でのお出かけ──ますます居心地が悪いじゃないか。


「ご注文いただいた、ミルクティーとストレートティーと──」


 注文してからあまり待つことなく、頼んだ飲み物がやってくる。店が混んでいるから、もっとかかると思っていたが、意外だった。


 アラン様が頼んだ飲み物は六つあった。これは──


「コルネ君は、これでいいかな。嫌だったら私のと取り換えるが──」

「い、いえ──これで結構です」


 やはり一つは俺の分だった。それにしてもアラン様と飲み物を取り換えるなど、恐れ多すぎる。


「では本題に入るのだが──君はジャンが入っていたパーティメンバーのコルネ君で間違いないな?」

「は、はい」


 これはやばいやつだ……! 頭の中で警鐘が鳴る。


 ラムハはアラン様の領地の外だから、と安心しきっていたが、ジャンを放り出してパーティを抜け出したのだ。もし正直面倒だという理由でパーティを抜けたのがアラン様にバレていたとしたら──ああ、想像しただけで恐ろしい。


 国王ではないから表立って不敬罪に問われることはないが、秘密裏に処理されてしまうことはあるかもしれない。


 もしかしたらアラン様の評判がいいのは、逆らう者を次々に消しているからなのかも──ごめんなさい師匠、なるべく師匠には被害が及ばないように頑張りますから。


「その際は、ジャンがすまなかった」


 そう言って頭を下げるアラン様。


 え? なぜアラン様が……たしかにジャンは面倒だったけど、それを放ってパーティから抜けた俺の方が悪いだろう。それなのに──


「ジャンも今では反省しているから、許してやってはくれぬか」


 見ればジャンも、他の三人も頭を下げている。シュールな光景を他のお客さんが不思議なものを見るような視線を向けている。


「あ、頭をお上げください。こちらこそ、申し訳ありません──パーティを抜けてしまって──」

「それはジャンが抜けろと言ったからなのだろう? 仕方のないことだ」


 たしかにその通りだが……それでも俺たちが全員抜けてジャンを一人置き去りにするのはいい選択ではなかっただろう。俺にも四分の一くらいの責任はある。


「ずっと謝らねば、と思っていたのだ。押し付けるような形でパーティに入れさせてしまって、パーティは解散してしまって……申し訳なく思っていた」


 目を少し伏せ、語りだすアラン様。


「そのためにわざわざ付き合わせてしまって悪かった。きっと広場でステージを見に行く途中だったのだろう──ここは私が払っておくから、行ってくるといい」

「ありがとうございます」


 正直この空間は非常に気まずく、一刻でも早く立ち去りたかったので、これ幸いと店から出ようと席を立つ。ご馳走になりますと言って、ペコペコしながら店を出る。


 店を出て、大きく息を吐く。自覚はなかったんだろうけど、アラン様たち五人に囲まれて圧がすごかったな。

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