第118話 シスター 其の二

「昔は王都でシスターをやっていてねぇ。回復魔法の腕もそれなりだったんだよ」


 語りだしたシスターは少し恥ずかしげだった。


「でも回復魔法だって全てを治せるわけじゃない。それに失敗することだってある。毎日毎日やっていると、回復魔法を使うたびに次は失敗するんじゃないか、失敗したらどうしよう──って考えて精神的に参ってしまってねぇ……ちょうど管理する人がいなくなったこの修道院に来て、孤児院を始めたのさ」


 てっきりここは昔から身寄りのない子どもたちが暮らしていたのかと思っていたが、「孤児院を始めた」ということは、そうなったのはシスターの代からなのだろう。


「それから私は人前で回復魔法を使わなくなった──というより村にはお医者様がいたから使う必要がなかったんだよ。お医者様がいないときに熱を出した子どもに何度か使ったことはあったけど、それくらいかねぇ」


 たしかに村にはいつもおじいさんのお医者様がいる。おそらくシスターと同じくらいの歳だから、きっとシスターが村に来た頃にはすでにいたのだろう。


「人前じゃないところなら、今でも使ってるけどねぇ。孤児院の子どもたちや自分の腰──一日一回復魔法は元気の源だねぇ。コルネが寝込んだときにも使ったことがあるよ」


 なるほど、シスターが歳の割に元気なのは回復魔法のおかげなのか。寝込んだときのことは全然覚えていないから分からないが、今思えば孤児院の子どもは他の子に比べて病気が治るのが早かった気がする。


「今話したことは内緒だよ。もう歳だし、魔法の効き目があるかも分からない。村の人たちに無駄な期待はさせたくないんだよ。それに──いや、何でもないよ。とにかく約束だからね」

「分かりました」


 シスターは何を言いかけたのだろう。まあここに来た経緯からして言いづらいこともあるだろうから、訊かないでおこう。


「あ、それとここに寄付をしたくて──」


 そう言って金貨の入った袋を出すと、シスターは驚いた様子だった。中身を見てシスターは真面目な顔で訊いてくる。


「コルネ、本当にいいのね? これだけの寄付をしてもコルネはちゃんと暮らせるのね?」

「はい、大丈夫──だと思います」

「そう、じゃありがたく使わせてもらうよ。本当にありがとうね、これだけあればずいぶん持つわ」


 孤児院の子どもたちには、ひもじい思いをしてほしくないからな。毒キノコを食べるはめにはさせたくない。


 この寄付も今回の里帰りの目的の一つだったから、こうして無事に寄付できてよかった。子どもたちを見る限り、今はあのときほど経営が苦しいわけではないようだが、決してお金に余裕があるわけではないだろう。


 このお金はきっと子どもたちの役に立ってくれるはずだ。


「じゃあそろそろ俺は帰ります。シスターもそろそろご飯の準備をしないといけないでしょうし」


 準備の手伝いをする子どもたちに混ざろうかとも思ったが、普段手伝っていない人間がいても邪魔になってしまうだろう。それに今の俺では立っているだけでかなり場所を取ってしまう。


「そうね、もうそんな時間だねぇ。あ、その前に子どもたちに魔法剣を見せていったらどうかしら。前来たときにも見せてくれたでしょう」


 たしかに、俺が前に来たときも見せたら喜んでくれたっけ。でもあの頃は炎しか出来なかったし、今と比べて纏わせられる炎の量も少なかったから、すぐに飽きられてしまったような気がする。


 今の俺ならもっとすごいものを見せられるだろう。最高の魔法剣を最高の状況で見せたい。そのためには──


「シスター、みんながご飯を食べ終わったころにもう一度来てもいいですか?」

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