第117話 シスター

 シスターは俺がいたときから既にかなりの年齢で、それなのに俺たちの面倒をよく見てくれていた。腰はピンとしていて、村にいる他のお年寄りに比べれば元気そうだったが、それでも大変だったと思う。


 体がつらかっただろうに、シスターはいつも微笑んでいた。「徳がある」とはシスターのことなのだろう、と思わされるようなその微笑みは、いつも皆の拠りどころだった。


 立ち話もなんだから、とシスターが孤児院の中に入れてくれ、いつも子どもたちが使っているであろう椅子に座って話をする。穏やかな光が窓から差し込んでいて、心が安らぐ。


「ごめんなさいね、今のコルネには座りにくいでしょう」

「いえ、大丈夫──です」


 実際は椅子の高さに比べて脚が余ってしまい、座りづらかったが、気にするほどでもない。


「コルネが久しぶりに顔を見せてくれて嬉しいわ。ここ最近戻ってこなかったから心配してたのよ。元気にしてたかしら?」


 シスターのゆっくりと語りかけるような温かみのある口調を聞いて、本当にシスターは変わらないなと思った。


「はい、元気にやってます。一年ほど前から師匠──ロンドさんの弟子になって魔法剣を教えていただいています」

「へえ、あのSランク冒険者のかい? よかったねぇ、昔からコルネはロンド様に憧れてたものねぇ」


 くすりと笑うシスターの言葉で、魔法剣をまだ使えないころに「魔法剣ごっこ」と称して木の枝を振り回していた思い出が不意に甦る。魔法の炎の代わりに「ごおおおお」と炎が燃えるような音を口で言っていたのは今では黒歴史だ。


「でも冒険者は危険な職業だから、くれぐれも気を付けるんだよ。この前タミーが死んでしまったと聞いてねぇ──コルネは覚えてないかもしれないけど、昔ここにいた子でね。手のかからない本当にいい子だったのにねぇ」


 そう言って悲しげな目をするシスター。きっとアルノ兄さんから聞いたのだろう。


「私がついていればねぇ……なんて、足も悪いし子どもたちのこともあるから、そんなこと考えても仕方ないんだけどねぇ。それにもう魔法がしっかり効くのかも分からないしねぇ」


 窓の外を見つめながら呟くシスター。魔法? もしかしてシスターは回復魔法が使える? 一般的にシスターは回復魔法を使える人が多いらしいと村を出てから知ったが、てっきりシスターは使えないのだと思っていた。


 孤児院にいたときも使っているところは見たことがない。


「シスター、今魔法って──」

「コルネの元気な顔を見て安心したからか、口が滑ってしまったみたいだね。昔はそれなりの回復魔法の使い手だったんだけどねぇ。あれは何十年前になるかねぇ……」

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