第116話 孤児院
冒険者ギルド近くのよく泊まっていた宿屋に顔を出した後、太陽が傾き始めたのを確認してから、孤児院へ向かう。
道すがら遊んでいる子どもたちを見かけたので、孤児院から帰っているのは確実だ。
孤児院は今も変わらず他の家からは少し離れたところにあり、着いてみるとその周りを子どもたちが元気よく走りまわっていた。
「お兄ちゃん誰?」
「村で見ない顔」
遊んでいた子どもたちが俺を見つけて話しかけてくる。たしかによそからこの村に来る人は少ないし、村の外からわざわざ孤児院に来る人なんていないだろう。
不思議がられるのも無理はない。俺たちが孤児院を出てからはもう六年経っているし、今では俺のことを知らない子の方が多いだろう。
最近は全くだが、冒険者になってからも年に何回かは来ていたのに覚えられていないのは少しショックだ。
顔には出さないが落ち込んでいると、少し遠くから俺の名前を呼ぶ声がする。
「あ! コルネ兄ちゃんだー」
「コルネ兄ちゃん、久しぶり」
そう言いながらこちらに駆け寄ってきた男の子たちは──えっと…………俺も名前を憶えていない。見覚えはあるのだが名前までは分からないので、無難な返しをしておく。
「二人とも久しぶり」
年に数回しか会わない上に、孤児院にはたくさんの子どもがいるため、これはしょうがないのだ。おそらく俺の記憶力が悪いわけではないと信じたい。
それなら俺のことを覚えていなくてもしょうがないか。むしろ覚えている方が奇跡と言えるかもしれない。
二人はシスターを呼んでくると言って孤児院の中へ消えていった。
「お兄ちゃん、コルネっていうの?」
「そうだよ。昔はお兄ちゃんもここで暮らしてたんだよ」
最初に話しかけてきた五歳くらいの女の子から質問が飛んできたので、屈んで目線を揃えてから答える。
「そうなんだー、お兄ちゃんは何屋さんなの? パン屋さん? 野菜屋さん?」
「お兄ちゃんは冒険者をやってるんだ」
八百屋のことを「野菜屋さん」と言うのが可愛らしいなと思いながらそう返すと、ギィィという孤児院の扉が再び開く音がする。俺がいたときから建付けが悪いのか鳴っていた音だ。
「おかえりなさい、コルネ」
振り向くとそこには、俺の記憶の中と変わらない微笑んだシスターが立っていた。
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