第103話 レオンの剣術道場 其の十三

 ヨーゼフさんに魔力操作を教え始めて数日経った頃、ヨーゼフさんは体内を流れる魔力の感覚を掴めるようになった。


 魔力の感覚さえ掴めれば、巧拙はおいておくとして魔力操作は出来るだろうから一安心だ。


 これで第一段階はできた。次は魔力を操る練習に移ろう。ただ、俺はそこら辺を感覚でやっているふしがある上に、あと四日で帰らなければならないので、魔力を操ることについてはそんなに教えられないかもしれない。




 二日後、いつものように朝食のために食堂に向かうと、何やらみな騒がしかった。悪いことがあったというよりは、何かいいことがあったような空気だ。


 朝食を受け取り、いつものメンバーがいる席に着く。


「みんな騒がしいけど何かあったの?」

「ああ、街のはずれでモンスターが出たんだよ」


 モンスターが出たと言っても、この緊張感のなさはきっとそんなに強くない部類なのだろう。しかしモンスターが出たというのに、ここにいる人たちはむしろ盛り上がっているように見受けられる。


「出てきたモンスターを狩って、冒険者ギルドに持ってくと高値で買ってくれるんだ。でも安全のためとかなんとかで、上のグループにしか許可が下りなくて──ああ、俺のグループがあともうちょっと、もう七つほど上だったらなぁ」

「七つはちょっとじゃないだろ」


 なるほど、ここではモンスター討伐はたまにやってくる小遣い稼ぎのようなものなのか。道理で緊張感がないわけだ。


 たしかに討伐に向かう人が多すぎると、戦いづらくなってしまうから人数を絞るのは正解だ。そして討伐対象以外のモンスターも出てくる可能性があるため、行くのはいつも上のグループ。


 なるほどなあ、結果的にこれも上のグループに行くモチベーションに繋がっているのか。上手いシステムだと感心してしまう。


「コルネはモンスター倒したことある?」

「まあ、元々冒険者だったからな。それなりには」


 一時期は、狂ったようにモンスターを狩りまくるやばいやつだと思われていたこともあったが、それは伏せておこう。


 どんなモンスターを倒したのかだとかパーティメンバーのことだとかを訊かれ、特に隠すこともないので答えていく。


 幼い頃からこの道場で修行している人が多いからか、冒険者の話にすごく食いついてくる。完全に閉じているわけではないが、閉鎖的なこの道場では冒険者に会うことは少ないのだという。


 Sランク冒険者という肩書きを持ったレオンさんの弟子が、冒険者と関わりが少ないのはちょっと滑稽だと思ったが、仕方のないことだと思った。


 食器も空になり、今日もいつもの修行へ向かおうと席を立ったとき、食堂の扉が開きレオンさんが顔を出す。レオンさんは迷いなく俺のところまでやってきて声を掛ける。


「コルネくん、ちょっといいかな」

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