第102話 コルネのいない道場
ロンドは窓際に座って、漠然と空を眺めていた。
「暇だなぁ……」
「そうですね」
ふと口から出た言葉に返答があり、驚いたロンドが振り向くとヘルガが立っていた。手には洗濯物を抱えており、先ほどの発言は皮肉とも取れそうだが、表情からそうではないことがうかがえる。
「まるでコルネくんが来る前に戻ったようです」
「そうだね、あの頃も毎日ぼーっと過ごしてたっけ。」
懐かしむようにヘルガが空を見上げると、ロンドもつられて目線を移す。
「最初の頃は机に突っ伏して『コルネくんがいなくて寂しいよぉ』と事あるごとに言っていましたが、もうそれも言わなくなってしまいましたね」
ロンドの声真似をしながら、揶揄うようにヘルガが言う。
「途中からだんだん空しくなっちゃって。あ、今更だけど、調査のときとアクスウィルのときの留守番、改めてご苦労様」
「いえ、あのとき残れるのは私しかいませんでしたので」
「今、僕はヘルガがいても寂しいのに、ヘルガは一人で寂しかったんだろうなって思ってさ。もっとお土産を買って帰ればよかったかな」
寂しげに小さく笑うロンド。
「いえ、十分ですよ。あの手鏡、大事に使わせていただいてます」
少し口の端を上げるヘルガ。
「…………」
「…………」
少しの間、沈黙がこの場を支配する、が──
「ああああああコルネくん早く帰ってきてえええええええええええ! 寂しい! 寂しいよおおおおおおおおお!」
「コルネくんがいないと刺激が何もありません! この生ぬるいただ過ぎ行く日々を終わらせてくださいいいいいいい!」
突如道場内に響き渡る二人の叫び声で、まるで最初からなかったかのように沈黙が姿を消す。
二人とも最初のうちはまだ我慢できていたが、五日、六日と経つうちに平静を保てなくなってしまったのだ。
発端は、ヘルガが洗濯をしながらふと漏らした「寂しい」という言葉をロンドが聞いたことだった。
そこでロンドが発した「ヘルガも寂しいんだ」という言葉にヘルガが「私だって寂しいですよ」と返し、そこからどちらが寂しいかの言い争いになった。
言い争いの中で、どう言い繕ってもクールではない表情を見られてしまったヘルガはどうでもよくなり、こうやってロンドと一緒に叫ぶようになってしまったというわけだ。
一通り叫び終わった二人は、改めて約束を確認する。
「重ね重ね言いますけど、このことはコルネくんには内緒ですからね……!」
「もちろん分かってるよ。ヘルガも約束だからね?」
ヘルガと仲良くなれて嬉しいロンドと、やってしまったと思いながらも後の祭りでどうしようもないと、どこか悟った様子のヘルガだった。
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