第6話 毅然とした態度
護送を終え、署に戻ると、佐々岡が向こうから走ってくるのが見えた。
「馬鹿野郎!」
と叫んでいるようだ。おそらく、護送中の失態を、あの苛立っていた警察官が所属部署に連絡したのだろう。そして、佐々岡は怒りに満ちているのだろう。と日比谷は思った。
「何してるんだ!」
「どうもすいませんでした」
が、違った。
「馬鹿野郎!すぐに病院に迎え!!」
「はい?」
「生まれるぞ!お前の子供が!!」
「ええ!!」
護送中、OFFにしたスマホを、そのままにしていたのだ。
「さぁ、早く!おい!おい!タクシー!!」
佐々岡がタクシーを無理やり止め、日比谷を中に押し込んだ。
「○○病院まで!今回ばっかりは、スピード違反は目を瞑る!できるだけ早く頼むぞ!」
タクシーの運転手に佐々岡が言った。運転手は、驚きながらも、大きく頭を縦に振った。日比谷は、あまりの急な事態に対処しきれず、あたふたと右を向いたり左を向いたり、落ち着かない。
「不安か?」
車のドア越しに、佐々岡が問いかけた。
(はい)
と答えたつもりだったが、日比谷の口から音は出なかった。
「不安でも我慢しろ!いつでも、どんな時でも毅然とした態度でいるんだ!父親とはそういうもんだ!」
(はい!)
またしても、音は出なかった。
「さあ、行ってこい!」
佐々岡の声に押されるようにタクシーが前方へと動き出す。
加速するタクシーの慣性力に負けないように、日比谷はグッと全身の力を入れ、かなり遅れた返事を、はるか後方で見守る佐々岡に対して返した。
「はい!!!」
フランケンシュタイン ささき @hihiok111
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