第4話 父になる2

「ただいま」

自宅に帰った日比谷。義母と妻はもう寝静まっている。

二人を起こさないように、静かにリビングへ向かい、テーブルに用意されていた晩御飯をチンする。

今日一日、急な明日の仕事のためにバタバタと忙しかった。しかし、彼の脳の30%ほどしか機能しておらず。ずっと、うわの空だった。残りの70%は、正体のつかめない、黒く、重い、正体のつかめない霧のような観念に覆われていた。

 温まったご飯を食べ、風呂に入り、速やかに就寝準備を済ませ、妻の寝ているベッドに入る。そのタイミングで、妻が目を覚ます。

「おかえり、今日は遅かったわね」

「ごめん。起こしちゃった?」

「うん・・・」

妻はまた寝ようと、目を閉じる。

日比谷もまた、静かに目を閉じる。しかし、あの黒い霧が、彼の頭を渦巻いていて眠れない。

目を閉じて、目を開く、目を閉じて、目を開く。

そんな行為を繰り返しているうちに、また妻が目を覚ました。

「眠れないの?」

「うん」

「明日、朝早いんでしょ?今日、遅かったのに」

「うん」

「早く寝ないと」

「うん」

すっきりとしない、日比谷の返事に、妻は何かを察したようだ。

「何か悩んでるの?」

黒い霧がついに日比谷の脳の100%を支配した。

日比谷は、場違いな質問を口にした。

「子供が障害をもってたら・・・どうする?」

「どうするって?」

その具体的な内容について、答えることはできなかった。

「いや・・・なんでもない」

妻はまた、目を閉じる。

しばらくの静寂の後、眠りに落ちる寸前、彼の妻は口を開いた。

「私は産むわ・・・」

その瞬間、日比谷の中の黒い霧が消え去った。彼は、すっかり熟睡した。

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